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総理大臣、中学生になる。〜悪行教育現場をぶっ壊す最強の生徒会長〜  作者: まこーぼ


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第5部:革命と再生編

第54話:蜘蛛の糸と、国会という名の処刑場


 「政治とは、可能性の芸術である」

 かつてのドイツ宰相ビスマルクの言葉だ。だが、私・大河内重徳にとって、政治とは「可能性を摘み取る技術」だ。

 自分にとって脅威となる芽を、早いうちに摘み取る。あるいは、接ぎ木をして自分の養分にする。そうやって私は50年近く、この魑魅魍魎ちみもうりょうが跋扈する永田町で生き残ってきた。


 来週の国会審議に向けた準備が進む中、私は議員会館の自室に、ある人物を呼び出していた。

 高村玲子。

 かつての手駒であり、今は神条湊という少年に寝返った裏切り者。

 彼女は指定された時間通りに現れた。服装はいつもの白いスーツではなく、地味な紺色のスーツだ。表情は硬いが、以前のような媚びた態度は消え、戦士のような眼光を宿している。


「お久しぶりです、大河内先生。お呼び出しとは光栄です」

 高村は深々と頭を下げたが、その声には微かな敵意が含まれている。

「座りたまえ。紅茶でいいかな?」

 私は秘書に目配せし、最高級のダージリンを用意させた。香りが立つ。


「君が離島行きを拒否し、必死に抵抗していることは知っているよ。党内の反主流派に泣きついたようだね」

 私は優雅にカップを持ち上げた。

「無駄な足掻きだ。私の法案が通れば、教育委員会の権限は縮小され、君のポストなど消滅する。君が守ろうとしている北中学校も、国の管理下に置かれることになる」

「……存じております。先生が提出予定の『教育現場適正化法案』。あれは学校現場の自律性を奪い、国による統制を強める悪法です」

 高村はきっぱりと言い放った。


「悪法? 違うね。秩序だよ」

 私は笑った。

「北中学校の例を見たまえ。生徒に自由を与えた結果、何が起きた? 教師の過労、学級崩壊、PTAの分裂。カオスだ。やはり子供には強力な管理が必要なんだよ。神条くんのランキング制度も、国が管理すれば素晴らしいツールになる。それを私が証明してあげるのだよ」


「神条くんは修正しました。今の北中は、対話と信頼で再生しつつあります」

「修正? 妥協の間違いだろう。彼は牙を抜かれたのだ。君という大人の知恵を借りてね」

 私は身を乗り出した。

「高村くん。取引をしよう。君を許してやってもいい」


 高村の眉が動く。

「……条件は?」

「神条湊を、参考人として国会に呼べ」

 

 高村が息を呑んだ。

「国会招致……? 中学生をですか?」

「そうだ。文教科学委員会で、彼の取り組みについて証言してもらう。表向きは『生徒主体の改革のモデルケース』として称賛し、意見を聞くためだ。だが、実際は……」

「公開処刑、ですね」

 高村が私の言葉を引き取った。


 その通りだ。

 国会という檜舞台。何十台ものテレビカメラ、百戦錬磨の議員たち、そして私からの鋭い質問攻め。

 いかに神条が早熟な天才でも、そのプレッシャーには耐えられないだろう。彼のボロを出させ、失言を誘い、全国放送で「生意気なガキが論破され、泣きべそをかく姿」を晒す。

 それで彼のカリスマ性は死ぬ。

 そして、失意の彼を私が保護し、私の秘書として再教育する。完璧なシナリオだ。


「断れば?」

「君の過去の汚職疑惑――学校建設工事における談合への関与疑惑を、週刊誌にリークする。証拠なら、この引き出しにあるよ」

 私は机をコンコンと叩いた。もちろん捏造だが、疑われるだけで公務員は終わりだ。


 高村の顔から血の気が引いていく。

 彼女は唇を噛み締め、膝の上で拳を握りしめている。

 神条を守るか、自分を守るか。

 究極の選択。

 人間は、こういう時にこそ本性が出る。


「……分かりました」

 長い沈黙の後、高村は絞り出すように言った。

「神条くんに、参考人招致の話を通します。ただし、一つ条件があります」

「ほう。聞こうか」

「彼を潰すのではなく、あくまで『教育的指導』の範囲に留めてください。彼には未来があります」


 甘い。甘すぎる。

 だが、それが彼女の限界だ。

「約束しよう。私は子供をいじめる趣味はないからね」

 私は嘘をついた。政治家の約束など、トイレットペーパーよりも軽い。


 高村が部屋を出て行った後、私は大声で笑った。

 愉快だ。

 蜘蛛の糸に獲物がかかった。

 来週の国会が楽しみだ。神条湊、君がどれほどの器か、国民の前で試させてもらうよ。

 私は窓の外の国会議事堂を見つめた。

 あそこは、夢を語る場所ではない。夢を食い物にする魔物が住む館だ。

 一介の中学生が、あの空気に耐えられるかな?

 もし耐えられたとしたら……その時は、君を本当の怪物として認めてやろう。

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