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総理大臣、中学生になる。〜悪行教育現場をぶっ壊す最強の生徒会長〜  作者: まこーぼ


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第1章:未開の地にて

第3話:懐柔の美学


 松島による「指導」という名のヒステリー発散は、私が介入したことで標的がブレ、結果的にうやむやのまま終わった。彼女は捨て台詞を吐いて職員室へ戻り、泣いていた女子生徒は私に何度も頭を下げて去っていった。


 そして今、私は影山と共に、校舎裏の茂みに隠れていた。


「……撮れた?」

「う、うん。バッチリ。叩かれた瞬間も、音声も」


 影山が差し出したスマホの画面には、鬼の形相で出席簿を振り下ろす松島の姿が鮮明に映っていた。

 

「素晴らしい。大手の手柄ですよ、局長」

「心臓止まるかと思った……。でも、なんか、スカッとしたかも」


 影山の顔には、これまでにない高揚感が浮かんでいた。

 恐怖を乗り越え、権力者の弱みを握るという背徳的な快感。それを一度知ってしまえば、彼はもう後戻りできない。私の忠実な部下となるだろう。


「このデータはクラウドに保存し、暗号化をかけておいてください。使うタイミングは私が指示します」

「了解。……で、次はどうするの?」

兵隊コマを増やします。頭脳は手に入れた。次は手足となる実行部隊フォースが必要です」


 私が次に狙いを定めたのは、クラスの中心人物である大野だった。

 翌日の昼休み。私は購買部へ向かう大野に、廊下で接触を図った。彼は一人だった。桐島は部活の朝練の疲れで寝ている。


「大野くん。少しよろしいですか」

「ん? ああ、神条だっけ。昨日は変なこと言ってたなー。何? 俺も勧誘?」


 大野は人当たりの良い笑顔を崩さない。だが、その目は笑っていない。

 彼は私が「異物」であることを認識し、警戒している。中学生にしては完成された処世術だ。


「勧誘ではありません。取引ディールです」

「取引?」

「君、困っているでしょう? 桐島くんのことで」


 大野の足が止まった。


 私の調査によれば、大野は桐島の幼馴染であり、昔から彼の尻拭いをさせられてきた。

 そして最近、桐島がある問題を起こしかけている。

 部活の後輩への「しごき」だ。

 まだ表沙汰にはなっていないが、もし発覚すれば、エースの桐島だけでなく、サッカー部全体が活動停止処分になる可能性がある。当然、大野も連帯責任を負わされる。


「……何のことかな」

「サッカー部内での行き過ぎた指導。あれが教師の耳に入れば、夏の大会は絶望的ですね。特に、生活指導の権田先生は部活の不祥事に厳しい。柔道部以外の部活を潰したがっているという噂もあります」


 大野の表情から笑顔が消えた。

 彼は周囲を見回し、私を階段の踊り場へと連れ込んだ。


「どこでそれを聞いた? 誰にも言ってないはずだぞ」

情報網ソースは秘密です。ですが、安心してほしい。私は君を脅したいわけじゃない。むしろ、助けたいのです」


 私は懐から一通の封筒を取り出した。


「これは?」

「ある『嘆願書』の下書きです。被害を受けた後輩たちの署名を集め、先に顧問へ提出する。ただし、内容は『桐島先輩の熱心な指導への感謝と、一部の誤解について』という形にする」

「はあ? なんだそれ」

「先手を打つのです。問題が起きる前に『あれは指導の一環であり、被害者などいない』という既成事実アリバイを作ってしまう。もちろん、桐島くん本人には、私から釘を刺しておきますよ。『このままでは君の進路に関わる』とね」


 これは、政治の世界でよく使われる火消しの手法だ。

 問題を隠蔽するのではなく、問題の定義そのものを書き換えてしまう。

 

 大野は封筒の中身を読み、唸った。

 その文章は、中学生が書いたとは思えないほど論理的で、かつ大人の情に訴えかけるような巧みな構成になっていた。


「……お前、マジで何者なんだよ」

「ただの、お節介なクラスメイトです。――どうしますか? この策に乗りますか? それとも、権田先生にバレて部活が潰れるのを待ちますか?」


 大野はしばらく黙考した後、深いため息をついた。


「……分かった。乗るよ。桐島も、最近ちょっと調子に乗ってて手を焼いてたんだ。お前が止めてくれるなら助かる」

「賢明な判断です。貸し一つ、ということで」

「ああ。……で、俺は何をすればいい?」

「君には、クラスの世論操作コントロールをお願いしたい。私が動く時、クラスの空気が私に有利になるよう、さりげなく誘導してほしいのです」


 大野という強力なパイプを得たことで、クラスの最大派閥は実質的に私の支配下に入った。

 情報と、数。

 これで、教師と戦うための最低限の基盤は整った。


 だが、まだ足りない。

 決定的な一撃を与えるための、「大砲」が必要だ。

 私は教室に戻り、次なる一手――教師たちを分断し、孤立させるための策を練り始めた。

 

 チャイムが鳴る。

 平和ボケした教師たちが、今日もまた、自分たちが狩られる側になったとも知らずに、悠長に授業を始めようとしていた。

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