第5部:革命と再生編
第48話:反撃のライブストリーミング
土曜日の夜。
PTA臨時総会の前夜。
高村率いる教育委員会と、PTA反主流派は、明日の総会で権藤会長の解任と、ランキング制度の廃止を決議する予定だった。メディアも取材に来ることになっている。完全に彼らの独壇場だ。
だが、その裏で、私たちは別の「放送」を準備していた。
午後8時。ゴールデンタイム。
動画配信サイトの最大手プラットフォームで、一つのチャンネルがゲリラ的に立ち上がった。
タイトルは『【緊急生放送】報道されない中学校の真実〜僕たちは洗脳されていない〜』。
カメラの前には、私、神条湊が座っている。
場所は生徒会室。背景には、これまでに生徒たちが書いた「教員への要望書」や「ランキングの集計データ」が貼られている。
配信開始と同時に、視聴者数が爆発的に伸びていく。影山がSNSのインフルエンサーたちに拡散を依頼していたからだ。
同接数1万人、2万人……5万人突破。
「こんばんは。北中学校生徒会長の神条湊です」
私はカメラに向かって深く一礼した。
「連日、ニュースでお騒がせして申し訳ありません。ですが、テレビで報道されている内容は、あまりにも一方的で、切り取られたものです。今日は、編集なしの『生の声』をお届けします」
私はタブレットを操作し、画面上に資料を映し出した。
「まず、『生徒会長がいじめを行っている』という報道について。これは、いじめではなく『正当な評価』です。証拠をお見せします」
画面には、以前の演説会で公開した、松島の体罰映像や佐久間の暴言音声が流れる。
コメント欄が加速する。
『うわ、ひどすぎ』『これは教師が悪いだろ』『マスコミはこれを報道しないのか?』
世論の風向きが変わり始める。
「そして、『自殺未遂』というデマについて。これは教育委員会が捏造した情報です。該当する教師は、単に仮病で休んでいるだけです。その証拠に、昨日の夜、彼がパチンコ店にいる写真があります」
情報局が掴んだ、3年B組担任が元気にスロットを打っている写真を公開する。
『ワロタ』『元気じゃねーか』『教育委員会の嘘つき』
そして、ここからが本番だ。
私はゲストを招き入れた。
「今日は、実際に被害を受けた生徒たちに来てもらいました」
画面に現れたのは、松島に叩かれた女子生徒や、佐久間に暴言を吐かれた西園寺先輩、そして部活で潰されかけた桐島たちだ。
彼らは顔出しで、自分の言葉で語り始めた。
「先生が怖くて学校に行けませんでした」「神条くんが助けてくれたんです」「ランキングのおかげで、先生が優しくなりました」
涙ながらの訴え。
それは演技ではない。本物の言葉だ。
視聴者数は10万人を超えた。
『頑張れ』『応援するぞ』『教育委員会許せねえ』
コメント欄が応援一色に染まる。
最後に、私はカメラを見据えて言った。
「高村玲子指導主事。貴女は言いましたね。『子供たちを守る』と。
ならば、なぜ貴女は、体罰教師を処分せず、それを告発した生徒を潰そうとするのですか?
貴女が守りたいのは子供ではなく、教育委員会のメンツと、貴女自身の出世ではありませんか?」
私は、高村が過去に担当した学校で、いじめ自殺事件を隠蔽したという疑惑の記事(有田記者が調べてくれたネタだ)を提示した。
『疑惑の指導主事』。
これで彼女の「正義の味方」という仮面は剥がれ落ちた。
配信終了後、ハッシュタグ「#北中生徒会を救え」がトレンド1位を獲得した。
テレビ局にも抗議の電話が殺到し始めたという。
高村のスマホが鳴り止まない頃だろう。
翌日のPTA総会。
会場には、ネットを見て駆けつけた保護者たちが溢れかえっていた。
反主流派の役員たちは、圧倒的な「神条支持」の空気の中で何も言えず、権藤会長の解任動議は否決された。
高村は会場の隅で、青ざめた顔で唇を噛んでいた。
彼女のメディア戦略は、ネットという黒船によって粉砕されたのだ。
私たちは勝った。
だが、これはまだ前哨戦に過ぎなかった。




