第5部:革命と再生編
第47話:メディア・スクラムと歪められた真実
「氷の女」高村玲子の宣戦布告から3日後。
彼女の「大人の喧嘩」は、予想よりも早く、そして陰湿な形で始まった。
木曜日の朝。
私が登校すると、校門前には無数のカメラとマイクが林立していた。テレビ局の中継車、週刊誌の記者たち。
彼らは登校してくる生徒たちにマイクを突きつけ、強引にインタビューを行っていた。
「ねえ君、生徒会長にいじめられてるって本当?」
「先生がかわいそうだと思わない?」
「学校が無法地帯になってるって聞いたけど?」
質問の内容がおかしい。
明らかに「生徒会が悪」という前提で質問が組み立てられている。
私が校門に近づくと、記者たちが一斉に群がってきた。フラッシュの嵐。
「神条くん! 君が生徒会長だね! 教師を脅迫して学校を乗っ取ったというのは事実か!」
「ランキング制度で先生を自殺未遂に追い込んだって本当!?」
「教育委員会が懸念を示しているが、君は独裁者になるつもりか!」
自殺未遂? そんな事実はどこにもない。
私は足を止め、マイクの放列を見回した。
「事実無根です。ランキング制度は生徒の総意であり、自殺未遂など起きていません。教育委員会のデマゴーグ(扇動)に踊らされないでください」
私は冷静に答えたが、記者たちは聞く耳を持たない。彼らが欲しいのは「真実」ではなく、「生意気な中学生が生意気なことを言っている絵」だけなのだ。
その日の夕方のニュース番組。
特集コーナーで『崩壊する学校現場~中学生徒会長の暴走~』というテロップと共に、北中学校の映像が流れた。
そこに映っていたのは、モザイクのかかった「保護者Aさん」のインタビュー映像だった。
『うちの子が、生徒会に逆らったら内申点を下げると脅されたんです』
『ランキングのせいで先生方が萎縮して、授業が成り立っていないそうです』
『まるでカルト宗教みたいで……怖いです』
真っ赤な嘘だ。
しかし、視聴者にはそれが真実に見える。
そして、コメンテーターとして登場したのは、教育評論家を名乗る男と……なんと、高村玲子だった。
彼女は清楚なスーツを着て、悲痛な面持ちで語っていた。
『ええ、非常に残念な事態です。一部の生徒が暴走し、他の純粋な生徒たちが洗脳状態にあると言わざるを得ません。我々教育委員会としては、子供たちを守るために毅然とした対応を取る予定です』
完璧な演技だ。
彼女は自分たちを「子供を守る正義の味方」に仕立て上げ、私を「子供たちを洗脳する悪魔」として演出したのだ。
情報局の影山から連絡が入った。
『神条くん、まずいよ。ネットが大炎上してる。君の実名と住所が晒され始めてる』
『保護者Aさんの正体、分かったよ。PTA副会長の一派だ。高村が裏で接触して、次期会長のポストを約束したらしい』
PTAの分断。
高村は、私が味方につけた権藤会長の足元を崩しにかかったのだ。権藤会長は強引な手法で敵も多い。その反主流派を抱き込み、内部からPTAを瓦解させる。
さらに、マスコミを使って世論を味方につけ、外堀を埋める。
見事な手腕だ。官僚的な「根回し」と「世論操作」の教科書のような攻撃。
翌日、学校には数百件の抗議電話が殺到した。
「生徒会長を辞めさせろ」「学校は何をしている」
校長室では、高村が冷ややかな笑みを浮かべて紅茶を飲んでいた。
私は生徒会室に籠城し、対策を練っていた。
一ノ瀬が不安そうに言う。
「どうするの? このままじゃ、PTA総会で会長が解任されちゃうわ」
「権藤会長が失脚すれば、私たちの後ろ盾がなくなる。……高村の手のひらの上で踊らされているな」
私は悔しさを噛み締めた。
だが、同時に冷静な計算も働いていた。
敵がメディアを使うなら、こちらもメディアを使えばいい。
ただし、既存のオールドメディアではない。
もっと速く、もっと感情に訴えかける武器。
「影山くん。……アレを使う時が来たようだ」
「えっ? まさか……」
「ああ。ライブ配信だ。編集されたニュース映像ではなく、生の『学校のリアル』を世界にぶつける」
私は立ち上がった。
世論戦には世論戦を。
プロパガンダの応酬。泥沼だが、勝つためには潜らなければならない沼だ。




