第5部:革命と再生編
第44話:暴君と化した生徒たち
権力は腐敗する。絶対的な権力は絶対に腐敗する。
イギリスの歴史家アクトンの言葉通り、北中学校の生徒たちは、急速に「腐敗」し始めていた。
昼休みの食堂。
本来は教師も利用する憩いの場だが、今は生徒たちの占領地となっていた。
テーブルの中央で我が物顔で座っているのは、3年生の不良グループだ。彼らは机に足を投げ出し、大声で笑っている。
その横には、生活指導の代理となった若手教師・鈴木が立たされていた。彼はトレーに山盛りのパンとジュースを持っている。
「おい鈴木、遅えよ。焼きそばパン売り切れてただろ?」
リーダー格の生徒が鈴木を睨む。
「す、すみません。列が長くて……代わりにメロンパンを……」
「はあ? メロンパンなんか食えるかよ。買ってこいよ、コンビニで」
「で、でも校則で校外への外出は……」
「ああん? 俺たちに逆らうのか? ランキング、最下位にしてやろうか?」
魔法の言葉だ。
「ランキング」。その一言で、教師は思考停止し、服従する。
鈴木は顔面蒼白になり、「す、すぐに行ってきます!」と脱兎のごとく食堂を飛び出していった。
不良たちがドッと笑う。
「見ろよあいつ、マジでビビってやんの」
「教師チョロすぎ。俺ら最強じゃん」
私は、食堂の隅でその光景を見ていた。
隣には影山がいる。
「……ひどいな。これじゃ、権田先生がやってたことと同じだ」
影山が眉をひそめる。
「ああ。被抑圧者が解放されると、最も手近な抑圧者の真似事をする。彼らは『自由』と『放縦』を履き違えている」
校内では、こうした光景が日常茶飯事となっていた。
授業中にスマホでゲームをする生徒。注意しようとした教師に「低評価つけるぞ」と脅す生徒。掃除当番を教師に押し付ける生徒。
秩序は崩壊し、学校は無法地帯になりつつあった。
真面目な生徒たちの中にも、「先生が可哀想」「さすがにやりすぎ」という声が出始めているが、暴走する不良たちの「評価権力」を恐れて声を上げられない。
これは私が望んだ改革ではない。
私は教師の不当な権力を剥奪したかったのであって、生徒を新たな暴君にしたかったわけではない。
だが、このカオスもまた、必要な通過儀礼だ。
生徒たちが自らの愚かさに気づき、「自律」の必要性を痛感するためには、一度底まで落ちなければならない。
「神条くん、どうするの? このままじゃ学校がパンクするよ」
「もう少し泳がせる。彼らが増長しきって、決定的なミスを犯すまでね」
私は冷ややかにパンを齧った。
その「ミス」は、意外な形で、すぐに訪れることになった。
放課後。
不良グループの一人が、理科室でボヤ騒ぎを起こしたのだ。
実験器具で遊んでいて、アルコールランプを倒したらしい。
幸い、理科担当の田中の迅速な消火活動で大事には至らなかったが、ボヤを起こした生徒は謝るどころか、「田中の管理が悪い」と逆ギレし、田中に暴行を加えようとしたのだ。
それを止めたのは、私ではない。
意外な人物だった。




