第5部:革命と再生編
第41話:新王の誕生と、玄関ホールの処刑台
革命の熱狂から一夜が明けた。
月曜日の朝。
登校してくる生徒たちの表情は、昨日までのそれとは劇的に変わっていた。
抑圧された暗い顔ではない。誰もが興奮を隠せない、紅潮した顔をしている。
「見たかよ昨日のニュース」「ネットでトレンド入りしてたぜ」「権田、マジで逮捕されるのかな」
廊下の至る所で、昨日の体育館での出来事が語られている。
そう、有田記者の記事は今朝の朝刊1面を飾り、動画サイトにアップロードされた権田の暴行シーンは数百万回再生を記録していた。学校の電話は朝から鳴り止まず、マスコミの中継車が校門前に列をなしている。
外部からの圧力(外圧)は、もはや止めることのできない奔流となっていた。
私は、生徒会室の会長席に座っていた。
革張りの椅子。広々としたデスク。かつては教師の傀儡が座っていたこの場所に、今、私が座っている。
目の前には、憔悴しきった校長と教頭が立たされていた。
「……神条くん。いや、神条会長」
校長の声は掠れ、瞳からは生気が失われていた。
「約束通り、君を正式に生徒会長として承認した。教育委員会への報告も済ませた。『生徒主体の改革を行うため、特例措置として認める』とな」
「賢明なご判断です、校長先生。これで貴方の退職金も、なんとか皮一枚で繋がりましたね」
私は書類にサインをした。
『生徒会規則 改正案』。
その第1条には、「全教職員は、生徒会が実施する評価制度に従う義務を負う」と明記されている。
「それで……ランキングの件だが……本当にやるのかね?」
教頭が怯えたように尋ねる。
「当然です。それが私の公約であり、全校生徒との契約ですから」
私は立ち上がり、窓の外を指差した。
チャイムが鳴り、1時間目が始まる時刻。
だが、生徒たちは教室に入ろうとしない。
全員が、正面玄関ホールに新設された巨大な液晶モニターの前に群がっている。
『第1回 北中学校 教員評価ランキング』
モニターには、全教職員の顔写真と、昨日の緊急アンケートに基づくスコアが、グラフと共に表示されていた。
1位:片桐美咲(養護教諭) ―― 支持率98%
2位:田中(理科・若手) ―― 支持率85%
……
28位:佐久間(3年主任) ―― 支持率12%
29位:松島(英語) ―― 支持率5%
30位(最下位):権田剛(生活指導) ―― 支持率0.3%
数字は残酷だ。
かつて「人気教師」を気取っていた佐久間の順位を見て、生徒たちが指差して笑っている。
「佐久間ざまぁ!」「化けの皮剥がれたな」
最下位の権田に至っては、顔写真に『謹慎中』という赤字のスタンプが押されている。彼は昨日の事件を受け、自宅謹慎処分となったのだ。
私はモニターの映像を見ながら、校長たちに告げた。
「ご覧なさい。これが民意です。あなた方の威厳など、最初から存在しなかったのです」
「……神条くん。君は、学校をどうするつもりだ」
校長が震える声で問うた。
「どうもしませんよ。ただ、正常化するだけです。サービス業としての学校にね」
私は生徒会室を出た。
廊下を歩くと、すれ違う生徒たちが私を見て道を空け、敬礼のような仕草をする。
「会長!」「おはようございます!」
その眼差しは、アイドルを見るような熱狂と、独裁者を見るような畏怖が入り混じっていた。
私は小さく手を上げて応えた。
権力を握った瞬間の、この全能感。
だが、私は知っている。熱狂はいつか冷め、暴走に変わることを。
ランキングという劇薬が、この学校をどう変質させていくのか。
実験は、まだ始まったばかりだ。




