表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
総理大臣、中学生になる。〜悪行教育現場をぶっ壊す最強の生徒会長〜  作者: まこーぼ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/51

第5部:革命と再生編

第37話:操り人形の演説と、凍りついた体育館


 2時間目。

 全校生徒が体育館に入場した。

 鉄扉が閉ざされ、窓には暗幕が引かれる。昼間だというのに薄暗い空間には、湿った熱気と、600人の緊張感が充満していた。

 普段なら私語やふざけ合う声が響くはずだが、今日は異常なほどの静寂が支配していた。

 咳払い一つ聞こえない。衣擦れの音さえ躊躇われるほどの緊張感。

 生徒たちは全員、背筋を伸ばしてステージを見つめている。その瞳には、これから始まる「何か」への期待と、微かな恐怖が宿っている。


 ステージの袖で、私は出番を待っていた。

 隣には、対立候補である佐藤健太がいる。バスケ部主将、爽やかイケメン。教師たちが「理想的な生徒会長」として擁立した操り人形だ。

 彼は顔面蒼白で、何度も深呼吸を繰り返している。手には汗で湿った演説原稿が握りしめられている。


「……なぁ、神条。今日、何かやるつもりだろ?」

 佐藤が震える声で聞いてきた。視線は合わせようとしない。

「何かとは?」

「とぼけるなよ。部活の連中が言ってたんだ。『今日は祭りになる』『神条が全部ぶっ壊すらしい』って。お前、何を仕掛ける気だ? 俺の選挙を邪魔する気か?」


 私は彼を一瞥した。

「君には関係ないよ、佐藤くん。君はただ、教師たちが書いた台本通りに、美しい優等生を演じればいい。それが君の役割だ。君のその綺麗な経歴に、傷をつけるつもりはないよ」

「なっ……! 馬鹿にしやがって……!」

 佐藤が何か言い返そうとした時、司会のアナウンスが響いた。


「それでは、立候補者演説に移ります。まずは、2年C組、佐藤健太くん」


 佐藤は強張った笑顔を貼り付け、ステージへと歩いて行った。

 拍手はまばらだ。儀礼的な、乾いた音がパラパラと響くだけ。

 佐藤がマイクの前に立ち、演説を始める。

「えー、皆さん、こんにちは。私は、『挨拶でつながる明るい学校』を目指します。毎朝の挨拶運動を強化し、ゴミ拾いボランティアを……そして、校則を守ることで……」


 退屈だ。

 誰も聞いていない。生徒たちは虚空を見つめ、あるいは足元を見ている。まるで佐藤が存在していないかのような無関心。

 教職員席の教師たちだけが、「うんうん、いいぞ」「しっかりした公約だ」と満足げに頷いている。彼らの表情には、「これで安泰だ」という油断がありありと浮かんでいる。彼らは気づいていない。自分たちの背後にある生徒席が、冷ややかな氷の海になっていることに。


 演説が進むにつれ、佐藤の声が上擦っていく。会場の無反応さに耐えきれなくなっているのだ。誰も自分を見ていない。誰も自分に期待していない。その孤独感が、彼の自信を削り取っていく。

 5分間の演説が、永遠のように感じられただろう。

 ようやく彼が「……以上です」と締めくくると、再びまばらな拍手が起きた。佐藤は逃げるようにステージを降りた。


「続いて、生徒会長候補、2年A組、神条湊くんの演説です」


 アナウンスが響いた瞬間。

 空気が変わった。

 それまで死んだようだった生徒たちの背筋が一斉に伸び、600双の目がステージの一点に集中する。

 ざわめきすら起きない。完全なる静寂。

 だが、その静寂は「無関心」ではなく、「固唾を飲んで見守る」種類の静寂だった。

 教職員席の空気がピリリと張り詰める。校長が眼鏡を直し、権田が腕組みをして睨みつけてくる。


 私はゆっくりと、一歩一歩踏みしめるようにステージの中央へ進んだ。

 スポットライトが眩しい。

 マイクの前に立つ。

 私は何も言わずに、ただ会場を見渡した。

 3秒、5秒、10秒……。

 長い沈黙。

 教師たちが「何だ?」「早く喋れ」とざわつき始めた頃、私はマイクのスタンドを外し、ハンドマイクとして握りしめた。


「皆さん」


 第一声。

 低く、落ち着いた声。


「聞こえますか? この静寂の音が」


 生徒たちが息を呑む。

 誰もが次の言葉を待っている。乾いたスポンジが水を求めるように、彼らは「真実」の言葉に飢えているのだ。


「これは、従順な羊たちの沈黙ではありません。嵐が来る前の、海鳴りのような静けさです」


 私はステージの端まで歩き、生徒たちの顔を一人一人覗き込むように視線を動かした。

 そして、ニヤリと笑った。

 さあ、始めようか。

 言葉という名の弾丸を、この腐ったシステムの心臓に撃ち込む時だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ