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総理大臣、中学生になる。〜悪行教育現場をぶっ壊す最強の生徒会長〜  作者: まこーぼ


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プロローグ:宰相の夢、少年の現(うつつ)


 その日、私は国会議事堂の赤絨毯あかじゅうたんを踏みしめていたはずだった。


 時代は平成の終わり。

 内閣総理大臣、剣崎けんざき 宗一郎そういちろう。六十五歳。

 歴代最長任期を誇り、「鉄の宰相」と恐れられた私は、野党からの内閣不信任決議案を鼻で笑い飛ばし、壇上で演説を行っていた。

 無数のフラッシュ、怒号と歓声。国を動かす重圧と快感。その全てが私の血管を駆け巡っていた。


 だが、視界が白く染まった瞬間、意識は唐突に断絶した。

 過労か、病か、あるいは暗殺か。

 最後に感じたのは、床の大理石の冷たさだけだった。


 ――そして。


「――おい、聞いているのか神条!」


 パンッ、という乾いた音が鼓膜を叩いた。

 同時に、額に走る鋭い痛み。


 私はゆっくりと瞼を開けた。

 目の前に広がっていたのは、重厚な議場ではない。薄汚れた緑色の黒板と、チョークの粉が舞う埃っぽい空間だった。

 鼻をつくのは、高級な革靴の匂いではなく、運動後の汗と制汗スプレーが混じったような、むせ返るような青春の悪臭。


 私は自分の手を見た。

 シミひとつない、小さく、柔らかな手。長年愛用していた万年筆ダコも消え失せている。


「おい! チョークをぶつけられて無視とは、いい度胸だな!」


 怒声が飛んできた方向を見やる。

 そこに立っていたのは、安っぽいジャージを着た中年男だった。竹刀を杖のように突き、充血した目でこちらを睨みつけている。


 記憶の彼方にある、懐かしくも不快な顔。

 ……そうだ。思い出した。

 ここは私の母校、県立北中学校。そしてあの男は、数学教師の坂本だ。生徒をストレス発散の道具としか見ていない、典型的で前時代的な公務員。


「……なるほど」


 私は状況を瞬時に理解した。

 事実は小説よりも奇なりと言うが、どうやら私は時を遡ったらしい。

 総理大臣としての知識と経験を持ったまま、中学1年生の春に戻ってきたのだ。


「『なるほど』じゃねえぞコラァ!」


 坂本が教卓を竹刀で叩く。教室中の生徒がビクリと肩を震わせ、俯いた。

 誰も目を合わせようとしない。恐怖による支配。独裁国家の末期によく似た光景だ。


 私は額についたチョークの粉を指で拭い、小さく笑った。

 かつてG7サミットで各国の首脳を相手に渡り合った私にとって、この程度の恫喝は赤子の泣き声にも等しい。


「申し訳ありません、先生。少々、日本の未来について思案しておりまして」


 私の口から出た言葉は、中学生にしてはあまりに慇懃無礼で、場違いなものだった。

 教室の空気が凍りつく。坂本は口をポカンと開け、言葉を失っている。


 この瞬間、私の二度目の人生の目的が決まった。


 この学校は腐敗している。

 教師という名の権力者が、無知な国民(生徒)を搾取し、虐げている。

 ならば、正さねばならない。政治家として、この無法地帯に法と秩序をもたらさねばならない。


 私は、心の中の「内閣」を組閣した。

 所信表明演説はまだ先だ。まずは、この腐った「国」の現状視察から始めようか。


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