自転車と雨宿り
「寒っ…」
濡れた上着を脱ぐこともできず、とりあえず自分の体をこすって温める。ちょっと図書館に行こうと思っただけなのに、こんなに雨が降るなんて聞いていない。
麻希の家から中央図書館までは自転車でおよそ二十分。ちなみに下り坂。つまり帰りは登り坂。全く雨の日に自転車を走らせるべき道ではない。しかも本を借りた帰りなのだから、濡れてもいいや、なんていつもみたいにはいかなかった。
隣に停めたマウンテンバイクの後輪に雨が滴る。麻希が雨宿りしている、公園の小さな屋根付きベンチは自転車が屋根の下に入れるほど広くはない。
強くなる雨が、屋根に跳ねて打楽器同然の音を立てた。あとどのくらいで止むだろうか。これだから夏の雨は怖い。
「あれ、麻希?隣いい?」
声の主は乗っていたママチャリから降りると、かごの中の荷物を持って麻希の隣に座った。
雨やばいな、と言いながら確認を始めた袋の中身を覗き見ると、どうやらスーパーでの買い物帰りみたいだった。二割引きのシールが見え隠れする。この幼なじみは、主婦より主婦らしいと思った。保冷バッグは防水性能もあるらしく、中身の被害はほとんどない。
「大丈夫、よし」
「晴樹、それ買ったのってそこのスーパーだよね?もうちょっといれば濡れなくて済んだのに」
「いや、いけるかなって。俺晴れ男だし」
晴樹が晴れやかに笑った。髪はシャワーを浴びたあとみたいにびしょびしょだけど。
晴樹はいつもこうだ。運がいいのにちょっとぬけてる。
「それより麻希の方が、なんか珍しいな!傘持ってないなんて。カバンから二、三本折りたたみ傘出てきそうなのに」
晴樹の顔を少し睨んで、隣に置いたカバンの中を探る。
「持ってるけど?いつでも一本。今日は自転車だから帰れないだけ」
サイクリングと同じくらい歩くことも好きだから、傘は欠かせない。ごめんって、と言う晴樹の言葉に二人でちょっと笑った。
そのとき、大きく風が吹いて思わず縮こまった。ガタンと音がして、自転車が倒れたことに気づく。見ると、麻希のマウンテンバイクが安定して止まっている晴樹の自転車に寄りかかっていた。
「あ、ごめん」
直そうとして立ち上がった麻希を晴樹が制止する。
「いいよ、そのままで。屋根から出たら濡れちゃうし。倒れるほど軽くないから」
晴樹は何故か遠くの木を見ていた。
言われるままに座り直す。寒かったから、麻希は少しだけ晴樹に近づいた。




