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『超巨大黄金プレスマン』

作者: 成城速記部

 ある長者の家の下男に、芋掘りと呼ばれる男がいました。長者の家の仕事を済ませると、くわを持って山に入り、自然薯を掘ってくるのでした。毎日掘り当てるわけではありませんが、持って帰らない日のほうが珍しいくらいで、芋掘りと呼ばれるにふさわしい才能でした。

 この芋掘りが、あるとき、金を掘り当てました。金というのは、普通、鉱石の中に、ほんの少し入っていて、砕いて溶かして、ようやく一粒とれるようなものですが、芋掘りが掘り当てたのは、金の塊でした。赤子一人分くらいの大きさで、小判をつくれば百枚ではきかないだろうというような、誰も見たことがないものでした。長者がお殿様に申し出て、本当に、小判百枚と交換してもらってくれました。

 芋掘りは、長者から、もう下男はやめて、長者として暮らすがよい、といって、長者のありようを、いろいろ教えてくれました。しかし、芋掘りは、何もしないで暮らすのは気が引けたので、人足を雇って、毎日山に入り、金を掘るようになったのでした。

 もともと、芋掘りが金を掘り当てたのは、金を掘ろうとしたわけではなく、芋を掘ろうとして、偶然掘り当ててしまったのでした。しかし、なまじ金を掘り当ててしまったために、今の芋掘りは、目がくらんでしまっているので、芋を掘り当てることもできず、さりとて、そうそう金を掘り当てられるわけもなく、したがって、山に入っても、何も手に入れられないのでした。

 そんな日々が三年ほど続いたある日、芋掘りは、細長く掘った鉱脈の奥から、前の金よりもっと大きな金を掘り当てることができたのでした。大人一人分くらいありそうな、超巨大プレスマンの形をした金の塊でした。芋掘りは、もともと自然薯掘りでしたから、細長いものを掘り出すのは得意です。人足たちに、超巨大黄金プレスマンの周りを丁寧に掘らせますと、一気に引き抜くように命じました。しかし抜けません。思ったより長いのかもしれません。もう少し掘らせました。引き抜くよう命じました。それを何度か繰り返したとき、鉱脈の天井が崩れました。落盤です。

 この日、山に入ったのは、いつもより多い人足でした。超巨大黄金プレスマンを引き抜くために、速記学習者の少年まで、かり出されていました。速記学習者の少年は、体力に何の自信もないので、人足の一番後ろについて、超巨大黄金プレスマンにくくりつけた綱を引く役につきました。今まさに、綱を引けという号令がかかったときです。速記学習者の少年の背後から誰かが、はい読みます、という声が聞こえました。速記の朗読開始の合図です。速記学習者の少年は、条件反射的に、その声のほうを向いて、速記を書く準備をしました。しかし、その声のほうには、誰の姿も見えないのでした。

 速記学習者の少年は、空耳かと思い直して、綱を引こうとしましたが、そのときまた、はい読みます、と聞こえました。速記学習者の少年は、またその声のほうを向きます。そんなことを何度か繰り返したとき、落盤が起きたのでした。芋掘りも人足たちも全員埋まってしまいましたが、速記学習者の少年だけは、命を長らえたのでした。



教訓:速記学習者の少年は、超巨大黄金プレスマン見たかったな、とつぶやいて、いろんな人からしかられたという。

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