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あなた
ほわほわ。
香りが、足元をすり抜ける。
青々とした木々の間、揺れる葉の音が消えて、ひとしずく、香りが静かに降り立つ。
それは、まだ見ぬあなたのようで。
遠くから、ただ流れてきた。
あたいは、ただ漂っている。
触れることなく、存在し続ける。
でも、あの香りが、あたいを捕らえていく。
ほわほわと、吸い込んで。
ひろがっていく、そのひとつひとつのしるし。
森林の奥深く、あなたがそこにいるような気がして。
でも、まだ見えない。
空気の中、あなたが足音を立てたなら。
あたいは、どこまでも追いかけていく。
あの香りだけを、ひとりで抱きしめたくて。
でも、すり抜ける。
触れたくても、手に入らない。
風はただ、ささやかな温もりを運んでいく。
あたいはまた、ほわほわと、風に溶ける。
香りを探して、また遠くに流れる。
それが、あたいのすべてだから。
あなたの匂いが、またあたいを呼んでいる。
今度は、どこで出会えるのだろう。
でも、すぐに消えていく。
香りは、決して届かない場所にある。
それでもあたいは、ほわほわとそのしるしを追いかけて、漂い続ける。
どこまでも。