手を握って…。 vol.087 「ひとり…、いますよ。」
受話器を耳に夕美子、心と亜季の顔を交互に見ながら…。
心、亜季、
「デスク…、誰に…???」
「もしもし、新條さん、お待たせしました。」
電話の向こうから…。
「あ、はい。すみません。」
「ひとり…、いますよ。」
健之。
「ありがとうございます。」
「掛川と言うカメラマンですが…。腕の良いカメラマンです。…けど~~。」
夕美子、
「掛…川…さん…。」
心と亜季の顔を見て、もう一度、
「掛川…さん。」
その名前を聞いた瞬間、心、亜季、顔を顰めて、
「もしかして…、ソフィア…。しかも…。…あっちゃ~~。」
夕美子、受話器の向こうに、
「もしもし、矢萩さん。掛川さんと…言うと、もしかして…、掛川修作さん…???」
その声に健之、
「えぇ~。その…掛川修作さんです。」
夕美子、心と亜季と同様に、苦虫を潰したように、
「ん~~。」
受話器を左の手に持ち替えて左の耳に。
そして右手で髪を掻き揚げながら、
「そうですか~。」
心と亜季、そして真奈香までもが、両手をクロスして。少しの沈黙。
受話器の向こう、
「新條さん、どうしました…???」
夕美子、口をすぼめて、そして真顔になって、
「矢萩さん。お願いします!!!」
亜季、
「夕美子―――――っ!!!」
心と真奈香、
「デスク――――――???」
その声が受話器の向こうから聞こえたのかは…、けれども、
「…分かりました。手配します。」
健之。
夕美子、心と亜季、そして真奈香の心情を感じてはいるが、受話器の向こうに、
「すみません、いきなりなもので…、よろしくお願いします。」
「…新條さん、彼の事に関しては私も把握してます。大丈夫ですよ。ご心配なく。私が責任持ちますから…。」
そんな健之の話に受話器の向こうに夕美子、
「ありがとうございます。お願いします。」
立ちっぱなしの亜季、そして心。
椅子で状況を見守っている真奈香。
思わずため息、
「なんだって…。こういう時に、掛川…。ソフィアの編集者なら…大丈夫だろうけど…。」
亜季。
夕美子、腕を組みながら椅子の背もたれに、バン。
「やるっきゃない。」
心、
「デスク~~。」
そして、
「…ごめんなさい。」
夕美子、
「ば~っかね~。あんたが謝ることじゃないでしょう~。心~~。」
掛川修作。かつてその才能を買われ、
ソフィアの雑誌の表紙まで担当していた専属カメラマンである。
それだけでも超一流。
けれども、厄介な事に、かなり女癖が悪く、
モデル潰しとも言われるほどのカメラマンだったのである。