手を握って…。 vol.086 「今の雰囲気出せる人…、いない…。」
「心!!!」
夕美子。
その夕美子の声に心、
「デスク~~。カメラマンの伊丹さん…。網膜剥離…だって…。」
「うっそ!!!」
夕美子、そして亜季、真奈香。
そして心の向かいにいる信玄も…。
夕美子、
「じゃ…、何…今の…撮影…。いやいや…、次のも…。え――――――っ!!!」
椅子を夕美子の方にクルリと…。そして目を潤ませながら…、
「伊丹さんじゃなきゃ…、今の雰囲気出せる人…、いない…。」
亜季、
「夕美子。やばいよ。カメラマン…今からじゃ、全くお手上げ。全然間に合わない。」
「なんだって…専属カメラマンが、網膜剥離…。自己管理…してるはずなのに…。」
小声で夕美子。
「とにかく、心の今の企画に沿ったカメラマン…、探すしかない。フリーだろうと…。時間がない。…心…、進捗状況は…???どこまで進んでる…???」
「まだ…、半分…。」
そして、悔しがりながら、椅子から立ち上がったものの、
また座りながら椅子を自分の机に向き直り、左手で額を押さえる心。
夕美子、
「漣太郎…。心、美紅に電話。」
心、
「はい。」
「あぁ~~、でも…今、美紅さんと康太…、撮影の…真っ最中…。」
信玄。
心、
「あ~美紅、今…大丈夫…???…実は…、困った事が…。……。」
美紅に状況を説明しながら…。
けれども、心の表情は晴れず…。
「そっか~~。ありがと…、うん。大丈夫、何とかやってみる。」
静まるブリリアント編集局。
通話を切って心、夕美子に向かって首を振る。
夕美子、
「だ…め…か…。」
腕組みしながら、そして右手を口に付けながら…窓際に…。
左右にチラリと動く目。その瞬間振り向いて机の上の電話から受話器を…。
プッシュボタンを押して、相手が出る。
「お疲れ様です。ブリリアントの新條です。」
「おや。お疲れ様です。新條さん。昨日は…。」
男性のその声が耳に届き、
「昨日は…ありがとうございました。お蔭様で…。すみませんけど…。お願いがあるんですけど…。」
「お願い…???はい、どうぞ。私で良ければ、何なりと。」
その声に、
「ありがとうございます。実は…。……。」
「ふんふん。なるほど~。カメラマン…。」
受話器を耳に、ブックスタンドから一冊のファイルを取り出して健之、
「少しお待ちを…。」