手を握って…。 vol.078 「ちょっと…、沁みるかな~~。」
通路を通ってドアの向こうに入って行く6人。
棚の中から救急箱を取り出して。
「はい、矢萩さんもワコウちゃんも、ちょっと座って。」
もうその頃には既にいつもの夕美子に戻っている。
手際良く健之の処置を始める夕美子。
「ちょっと…、沁みるかな~~。」
健之、
「あつ~~。」
「…って…。…それ…、ちょっと…、大袈裟でしょ。」
可笑しそうに夕美子。
他の面々も…。
「ん~~???」
健之、
「バレ…ましたか…。ははは。」
そして…、和弘の処置をしながら…。
「えっ…???それじゃ~、ワコウちゃんも。矢萩さんも…、お父さんの影響で…、喧嘩…。…って言ったら…、失礼だけど…。強いんだ~~。」
和弘、杏美、若、そして信玄。健之の顔を見て…。
「凄~~い。」
「こら、ワコウちゃん、動かない…。」
夕美子。
和弘、
「あっ、すみません。」
そんな杏美や若、信玄の声を聞いて健之、
「えっ。えっ。…いや…。どうして…???高梨君、君だって、相当なもんだけど…。僕に言わせれば…。」
「いやいやいやいや。とんでもない。」
夕美子から顎を押さえられながら…。
「あの左足の蹴りなんて…。僕…、あんな風に足…、上がりませんよ。」
和弘。
「でも…。あのフットワークから右拳をフェイクで、左拳なんて、素人には出来ないよ。」
そして、ニヤリと和弘の顔を見て、
「多分…、右手は、ああ言う事には、使いたくなかったんだろう…って、思ったりして…。」
そんな健之と和弘の会話を聞きながら、
ふと夕美子の脳裏に過ぎったジョギングの和弘の姿。
夕美子、頭の中で…、
「…ワコウちゃんの、あの姿…、知っているの…、私だけ…なんだ。」
自分の目の前で少しだけ微笑む夕美子の顔を見て、和弘…、
「僕の父さん。確かにお酒は凄かった。農家だったから。しょっちゅう、隣近所の人たちとお酒飲んでて。飲み過ぎて、男同士で、しょっちゅう喧嘩してた。」
杏美、若、そして信玄、健之、
「ふ~~ん。」
「よし、OK~。出来た。」
夕美子。
口をすぼめて和弘、
「ふ~~。ありがとうございます。」
夕美子にぺこりと頭を下げて…。
夕美子、頭を振る。
「ううん…。」
「…父さん…、ボクシングが好きで、自己流で練習していたくらいだから…。僕も、いつの間にか…。」
「凄…。ボクシング…。」
信玄。
「いやいや、…とは言え、結局のところ、僕だって自己流ですから。…でも…、矢萩さんは…???」
面々が健之に注目する。
健之、
「僕は~~~。」
少し間を置いて…。少し照れながら…。