手を握って…。 vol.060 「じゃ、そのお母さん。かなり喜んだでしょう。」
「ふん…???どうか…しました…デスク…???」
奈賀。
健之、
「…ん…???いや…。」
エレベーターの前のビルのインフォメーションプレートを見た瞬間に、
健之の目に飛び込んできた企業名、「麻布セントラル・ムード」の文字。
健之、頭の中で、
「ここ…だったんだ…。」
そして、エレベーターに乗る前に、一度振り返り、フロア全体を見回す。
ポツリと、
「な~るほどね~~。」
そんな健之の声に奈賀、
「えっ、何がな~るほどね~~デスク…???…エレベーター、来ました。」
健之、
「おっ、お~~、お~~。」
そして、エレベーターに乗った後も、降りた後も、
あちらこちらと目を走らせる健之。
そんな健之を見ながら奈賀、
「ちょっと…、デスク~、子供じゃないんですから…。」
健之、
「あっ、いや。…ははは、は…。失礼。…では。」
いきなり姿勢を正す健之。
奈賀、
「くく…。ますます、子供だわ。…でも意外…。こんな側面があったなんて…。」
そしてクスリと笑いながらポツリと…、
「…嫌いじゃあ…、ないよね~~。ふふ…。」
「へぇ~~。康太~~、いいとこあるじゃ~~ん。さすがブリリアントのヤングだね~~。」
夕美子。
にこにこしながら照れる康太。
「じゃ、そのお母さん。かなり喜んだでしょう。」
與門。
「えぇ。…でも、何だか大変そうでした。」
康太、窓の外を見るように…。
真奈香、
「確かにね~~。今時、珍しいよ。おんぶ紐に…男の子かな…。そして両手に荷物…。だったもんね~~。」
20分前。ビルのエントランスで子連れの女性。
真奈香が言うように背中におんぶ紐で男の赤ちゃんをおぶって、
そして両手にバッグと紙袋。傍に2歳くらいの女の子。
エレベーターに向かおうと走って、途中で転んだのである。
丁度その傍に取材から戻ってきた真奈香と康太。
康太がいきなり走ってその女の子に駆け付けた。
優しくその子を起こして、
「大丈夫~~。痛いとこない…???怪我してない…???」
そして女の子が、何ともない事に気付くと、優しく頭を撫でて母親らしい女性に。
そんな、見ず知らずの男性に何度も頭を下げる女性。
少し髪は乱れて、着ている洋服も履いている靴も、さほど新しくはない。
けれども優しく丁寧に接する康太を見て真奈香、少しホロリと…。
女性が何やら康太に話しているが、笑顔で康太、両手をひらひらとさせながら、
逆に女性に何度もお辞儀をして。女の子に、「バイバ~イ。」
そして再び女性に深くお辞儀をして。真奈香に、「行きましょうか。」にっこりと。
真奈香、少し赤い目をして、
「や~るじゃん。この色男~~。」
康太の右肩をバン。
「あたた。…って、真奈香さん…、目ぇ…赤いですけど。」
真奈香、
「バ~カ。ふふ…、行こ。」