手を握って…。 vol.048 「今までになかった…匂い…。」
現在の笙子の体の状況、そして今後の事、検査などを瑠唯子に説明し、
そして少しだけの世間話をしながらベッドから離れる看護師の小柳、
「それでは、失礼します。矢萩さん、どうぞごゆっくり。」
瑠唯子、
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
病室のドアが閉まり、瑠唯子の顔を見ながら笙子、
「ん~~。健之が…どうしたって~???」
ベッドの上で笙子。
「ふん。何かしら今までとは違って、やたらと楽しそうなんだよね~。」
口を尖らせながら瑠唯子。
そんな瑠唯子を見て、
「…ならいいじゃない。楽しく仕事が出来るなんて、嬉しいじゃない。」
「…なんだ…けど…さ…。な~んか…気になるのよね~~。」
「何がよ…???」
「まっ。私の考え過ぎ…なのかも…知れないけど…。」
「くく…、可笑しな事…言うわね~~。」
「いや…、だって…、こう見えても、私、1年前まで化粧品の仕事してきてんのよ。自然に…。」
ベッドの布団を無造作になぞりながら瑠唯子。
「…と言う事は…。」
チラリと瑠唯子の顔を見て笙子。
「今までになかった…匂い…。」
ポツリ瑠唯子。
「おやっ。」
「まっ。今までとは環境的に、殆ど周りは…、女性編集者だって話だから~~。」
「ふ~~ん。いいんじゃないのぉ~。今まで、あんまり女性と…。…いや…、もしかしたら…全くなかったんじゃ。…あんたが五大さん。そして…、その内、健之もってんなら、母さん、嬉しいけどね~~。」
にっこりと笙子。
「まっ、そりゃ、そう…だけど…さ…。」
「美希~~。そろそろ、そこ、お片付けしてね~。」
キッチンから瀬戸の声。
瀬戸とは與門煌の義理の母親、つまりは姑であり、煌の一人娘美希の祖母、
與門瀬戸である。
そして煌の夫が與門早瀬、
都内の証券会社、住永証券に勤務している。マンション暮らしである。
「は~い。」
美希。
「おばあちゃん、美希も手伝うよ~~。」
「おやおや、良い子ね~~。…じゃ、パパ呼んできて。そろそろご飯ですよって。」
「は~い。」
そして父親の部屋に入って、ヘッドホンを外して父親の耳に、
「パパ~。おばあちゃん、ご飯だって~~。」
ヘッドホンを外されて、
「ん~~。おぅ、そっか、晩御飯ね~。お~し…行くか。…ママは…???」
「まだ帰ってないよ。」
「ふん。」
リビングに。
「母さん…、煌…???」
「あぁ、煌さんは臨時に編集会議が入ったからって、ご飯お願いって…。さっき電話…。」
「ほぅ、ほぅ、ほぅ。」