手を握って…。 vol.035 「やるっきゃなかったから。…それだけ。」
「わ~かちゃん。そこ、笑うとこじゃない。」
夕美子。
若、
「すみません。」
「な~に言いだすかな~おじちゃん。もう少しで吹き出すとこだったわ。やばい、やばい。」
心。
「ははは…。さすがにミスターベルモンドだ。洋造さん…、おもしろいですね~~。」
和弘。
「な~るほどね~。フランスの映画俳優に似てるって~~。みんなに聞いた~~。」
にこにこしながら心。
「うんうん。似てる、似てる、おじちゃん。」
「誰…???そのフランスの映画俳優って…???」
若。
「わ~かちゃんは知らないよ~。だって…私も知らないんだも~ん。でも…検索すると出てくるよ~。ジャン・ポール・ベルモンド。」
にこにこと心。
若、
「ふ~~ん。」
そう言いながらスマホで…。
「あっ、そうだ。新條さん。聞きましたよ~。朝っぱら、成田まで追っ掛けたと言う話。」
いきなり健之。
その健之の声に、
「ビクン。」
夕美子。
「あっ、あ~~。もう…春先の話ね~~。」
「何やら…、かなり緊迫した状況だったとか…。」
そして、一呼吸置いて、
「…でも、凄いですよね。…バイタリティ…あると言うか…。」
夕美子、
「……。」
「私には…、でき…ないかな~。あの技は…。」
夕美子の顔を見てペロリと舌を出して心。
「だから好きなんだよ、デスク…。ニヒヒヒ。」
そんな心に、
「な~に言ってんのよ。仕方ないでしょ、仕事なんだから~~。」
右肩で心の右肩を柔らかに押す夕美子。
「へぇ~~。そういう事…あったんですか~~。」
メニューを作りながら和弘。
「デザイナーからドタキャンされて…。そんじゃってんで、その宿泊先に朝っぱらタクシーで…。それでも間に合わなくって、今度は進路変更して成田まで直行。フライトギリギリで、何とかインタビュー、セーフ。」
笑いながらカクテルを作って、
「間に合わなかったら、大変だったな、夕美…。かかかか。」
洋造。
「ふん。まっ、巻頭飾ってたからね~~。正に。駄目だったら…。…と言うより、やるっきゃなかったから。…それだけ。」
「あきらめない。あきらめたらそこで…終わり…ですからね~。」
和弘。
「待っている読者…、いらっしゃいますもんね~。」
夕美子、その和弘の言葉に、
「えっ。」
そして心も健之も若も、そんな和弘の顔を見て。
お皿に料理を移しながら和弘、
「はい、出来ました~。雪さん…どうぞ~~。」
心、
「う~~っわ~~。美味しそう。さすが。頼んでないのに、私の~~。」