手を握って…。 vol.003 歯ブラシを口の中のまま。
洗面所で歯磨きをしながら、微かに聞こえる着メロ。
「…ん…???電話…。」
プツリと切れる。
歯ブラシを口の中のままで、
「…ん…???夕美子…。」
小曾根亜季。女性誌出版会社「桜華」の女性雑誌「brilliant」編集者である。
そのままポン。
タクシーの中で夕美子、
「やっと出た~~。な~にやってんのよ~~。この一大事に~~。」
まるでチンプンカンプンの亜季、
「え…???えええ…???何…???どしたのよ夕美子…???」
「何どうしたのじゃない。今私、タクシー。新宿向かってる。」
「はぁ~~???タクシーで新宿~~???…なんで…???会社…、逆だけど…???」
夕美子、
「…ん…???あんた、亜季…。言葉…良く聞き取れないけど…。」
「あ…。ごめん、ごめん…、歯…、磨いてた…、まだ口の中…歯ブラシ…。」
「は~~~???」
「…って…夕美子…、サブッ。」
夕美子、
「おぃ。」
スマホを耳に洗面所。スマホからは夕美子の声。
「うんうん。」
夕美子、
「…って…、亜季~。ペッペッって…、きったないでしょ。」
そんな夕美子の声に構わず、
「はぁ~。スッキリした~~。…って、口の中歯磨きの泡~~。こっちの方が気持ち悪いよ。…で~???」
「うん。…多分、このまんまじゃ間に合わない。」
そんな夕美子の声に亜季、
「…てぇ~事は…。」
リビングのテレビ画面を見て、そのまま壁の掛け時計に目をやって。
「あんたの事だから…。」
その亜季の声に、
「うん。」
「おやおや…。朝っぱらから新宿から成田まで追跡ってか~~。リッチ~~。」
「仕方ないでしょ。6月号の巻頭なんだから~~。…たく、牧田~~。」
「お~け~。みんなに言っとく~。…で、編集長には~???…この事…、言ってんの…???」
「ん~~。それより、これから古家さんとコンタクト取んないと…。」
「…向こうの動き…分かんないってか…。」
そしてスマホから聞こえるボソボソと言う運転手の声。
亜季、
「夕美子~~。一旦電話切るよ~。その分だと…。」
夕美子、
「うん。分かった。じゃ、お願い。」
「了~解。」
そして、テーブルの上のスマホに着電。
「…ん…???夕美子。オシ。…へっ…???亜季…???」
與門。
「おはよ。おつかれ~亜季。…もしかして…。」