手を握って…。 vol.207 「最初の…一度だけ…。」
和弘、
「オーナーの…、ジャン・クロード…さん…。ここに…???」
藤見、
「えぇ…。もう…2ヶ月前に…なるんだけど…。最初の…一度だけ…。」
「最初…の…、一度だけって…。それだけで…???」
「オーナーにしてみれば、それだけで…充分よ。オーナーシェフ、名前、ジャン・クロード。フランス人。今やニューヨークの三ツ星レストラン、ジュン・ジョルジュ、オーナーでもありながら、エグゼクティブオーナーでもある。」
「エグゼクティブオーナー…。」
「えぇ。まぁ…、料理を他のシェフに任せているって、訳でも…あるの。そしてその後に、いつも私と一緒に来ていた男性…いたでしょ、同じフランス人…。彼がニューヨークのレストランのチーフシェフ、ブリス・マルセル。」
「チーフシェフ…。…あの人が…。」
そしてパンフレットを両手で手前まで持ち上げて、小さな声で、
「ジュン…ジョルジュ…。」
藤見、
「高梨さんには…本当に突然の話しで、驚かれたと思います。我々にとって、この機会はある意味で言えば、チャンスなんです。」
「チャンス…???」
「えぇ…。」
「日本からシェフを産み出したいの。」
「えっ…???…でも、藤見さんは…日本人…???」
その和弘の声に藤見、
「んんん。私は…元々は…アメリカ人よ。国籍はアメリカ。素の日本人じゃない。小さい頃からアメリカと日本を行ったり来たり。」
今まで静かにあれこれと話していたカウンターの4人。
由香里、
「…長い。」
洋造、
「まま、そう…慌てなくとも。」
和弘の鼓動はさっきから高鳴ってはいたが、少しずつ、納まり掛けていた。
「高梨さん。じっくりと…、考えて欲しい。時間はあります。私たち、待ちますから…。」
その藤見の声を聞いて和弘、
「……。」
「いつでもいい。六本木に、一度…いらっしゃって…。歓迎する。」
にっこりと微笑んで藤見。
「じゃ、私はこの辺で、失礼します。」
上着とバッグを持ち、立ち上がる藤見。
「あっ、藤見さん。」
「…ん…???」
「わざわざ、足を運んでくれて…、ありがとうございました。」
そんな和弘の声に藤見、少し頭を傾げたが、すぐにまた笑顔で、
「うん。ありがとう。…どういたしまして…。」
そしてカウンターに寄り、
「マスター、長い時間割いていただいて、ありがとうございました。お礼…申し上げます。」
洋造に一礼をして。
洋造、そんな藤見に、
「いえいえ。またのお越し、お待ちしておりあす。」
「ありがとうございます。」
その時、丁度藤見の前の男女の2人連れ。
その右の女性が自分の方を見て、軽くお辞儀を…。
藤見も、軽くお辞儀を…その瞬間、いきなりフラッシュバック。
素早い瞬きの後、藤見、
「…失礼…ですけど…。茂木…由香里…さん…???」




