手を握って…。 vol.011 「う~~酸っぱ。効くね~~。」
リビングの絨毯の上で胡坐になり、テーブルに数冊の雑誌、
そしてグレープフルーツのひとかけらを口に頬張り、
「う~~酸っぱ。効~くね~~。」
スウェットのパンツ、そしてTシャツを着て、その上にロングカーディガンを羽織って、
バッグで髪を結い、ボストンのメガネを掛けながら、
雑誌のページを繰っている夕美子。
部屋から出てきて、
「おはよう~。」
倫洋。
「朝の~、上ね~。」
左手指だけ、倫洋に向けて。
「サ~ンキュ。おやおや…、素敵。しっかりと…、旨そう~~。今朝は和食ですか…。では、いっただきま~す。…て、姉ちゃん、もう…食べたの…???」
「あったりまえでしょ、何時だと思ってんの…。」
「ははは…、はい…です。9時…回ってんね…。…って…、日曜も雑誌に目…。仕事かよ…。」
「ん~~。まぁね…。アンテナはいつでもね~~。」
雑誌から目を放さずに…。
「…って、言うか…、寒くない…???その恰好…???」
「黙って食べな。」
新條夕美子、出身は山口県萩市。
都内上知大学卒業後、都内の出版会社に就職。
その後、弟の倫洋も、東京の大学に進学、
夕美子のアパートにふたり暮らし。
下積みを続けながらも編集者として勤務。
けれども、勤務して5年後に、編集仲間と、
どうしてもやりたい企画を提案し続けたのが、その念願叶わず、
その出版会社を辞めている。
けれども、その出版会社在籍中に、
大学の先輩でもありOBでもある與門煌からの誘いもあり転職。
今の、「桜華」の立ち上げメンバーの一員となり、それを機に倫洋と共に、
今の新しいアパートに越してきている。
弟の倫洋は、大学在籍中に、アルバイトとして引っ越し業者に勤務して、
その勤労振りを社長に見初められ、大学卒業後に正式に正社員として採用され、
今に至っている。
雑誌を捲りながら夕美子、
「…ん…???ふ~ん…。な~るほどね~。見てみるもんだよね~~。」
数冊のファション雑誌とビジネス誌をテーブルの上に、一冊の雑誌から、
「ほっほっほぅ~~。」
その時、着電、
「ん~~節子~~???」
「あっ、夕美子。…今日の夕方、和歌山…、帰るわ。」
節子、部屋の窓から見える赤坂の街を見ながら…。
夕美子、
「…うん。」
次第に瞼に熱いものを感じながら、
「節子~~。」
節子、
「うん…???ふふ…、泣いてんじゃないよ~。この~。カッコいい女が~。」
夕美子、
「ば~か。」
「彼の…歓迎会…出るんでしょ。」
「あっ。そっか~~。」