決別
すっかり日も暮れて、空には月が出ている。月って理由もなく綺麗に思う。なんでなんだろう。そんなことを考えていると早速親に伝えに行こうと優香さんが言ってくれる。
「私も一緒に行くね」
と、言い準備を始めている。私は優香さんに両親にあってほしくなかったので
「大丈夫ですよ一人で行けます。どうせ無視されるんですから、ほんとは言う必要すらないと思うんですけどね」
そう少し自嘲気味に言うと優香さんにぽっぺをつねられる。
「なにしゅるんでしゅか?」
何するんですか?そう言いたかったがはっきり喋れなかった。
そんな私を見てかわいいと笑っている。
「そうゆう言い方しちゃだめよ。リンちゃんの両親が無関心でも私がきちんとしないと気がすまないから。それにリンちゃんの私物も取りに行かなきゃでしょ?」
そう笑って言ってくれる。ほとんど私物なんてものはないのだがと思ったが、優香さんにまた悲しい顔をさせたくはなかったので言わなかった。
二人で歩いて私の家まで帰ってきた。
ドアに伸ばす手が止まる。妙に緊張する。ただ自分の家に入るだけなのに。
「大丈夫。私もいるから」
そう優しい声で優香さんが声をかけ、手を握ってくれる。とても暖かい。勇気をわけてもらった。そう感じた。
そして止まっていた手を再び動かし扉を開ける。
「ただいま」
家に入りそう声をかける。反応はない。いつも通りだった。わかっていたはずなのに今日は何故か寂しさを感じた。すると、
「ごめんください」
そう優香さんが言った。
少しして奥から母が出てくる。
「どちら様でしょうか?」
私には目もくれず、優香さんにそう聞いてきた。
「カウンセラーの佐藤優香と申します。鈴さんのことで少しお話があり伺いました。」
軽く自己紹介をし、家に来た要件を伝えると、
「そうでしたか。ここで話すのもなんですし上がってください。」
そう笑顔で母が返す。
「ありがとうございます。お邪魔します。」
と言い優香さんが中に上がる。
一緒についていこうとしたら、
「話はこっちでするから、自分の荷物まとめてきちゃって」
そう耳打ちしてきた。自分のことなのだから私がしっかり話さないといけないと思った。だが、それと同時に私が話しても無視されるかもしれないとも思った。逡巡した結果、情けないがここは優香さんに任せるほうがいいだろう。最終的にそう判断した。
「お願いします」
と言って二階の自室に向かった。
私服などを中学の修学旅行のときに使ったキャリーケースに入れ一階に持っていくとすでに優香さんが玄関で待っていて、母と話していた。
「お待たせしました」
そう言うと大丈夫だよと言ってくれた。
「では、鈴さんをお預かりします」
そう言うと、母は
「よろしくお願いします」
と言い頭を下げる。
お邪魔しましたと優香さんが言い玄関の扉を開ける。私も続いて外に出た。もう帰ってくることはないだろうと思い、扉を閉めようとしたとき
「頑張りなさいね」
母からそう言われた。
「はい」
そう短く答え扉を閉めた。
頑張りなさいねと言った母の顔は色々な感情の混ざった何とも言えない微妙な顔だった。
家から優香さんの住む団地に向かう最中、
「良かったね」
と言われた。
「良かったんでしょうか」
いまいちピンとこないので、そう聞き返すと
「何も言ってもらえないのよりはいいんじゃないかな」
と少し嬉しそうな顔をしながらそう言った。
そういえばと、両親とどんな話をしたのか聞いてみた。私達が一緒に住むことと学校を辞めることの許可を得たこと。それしか話してくれなかった。他に何か言われなかったのか聞いたが口を濁されてしまった。もしかしたら私には言いにくい話かもしれないのでそれ以上は追求しなかった。
そうして歩いている途中、
「リンちゃんは夢ってある?」
唐突だったが、
「ないですよ」
そう答えると、
「そっかぁ。できるといいね」
そう言って笑った。
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