提案
彼女はとても悲しい顔をしていたが同時にすごく怒っているのもわかる。
「そんな顔しないでください。綺麗なお顔が台無しですよ」
そう言うと、からかわないのと言われてしまう。
自分だって人をからかうくせに。
「君の現状について理解できた。でも、私は君の気持ちを完璧に理解することができていない。ごめんなさい。」
そう言われた。
なぜわざわざそんなことを言うのだろうと私は思った。単純に疑問だった。経験してないものは理解できない。そして同じ経験をしたからといって同じことを思うとは限らない。あなたの気持ちがわかる、そんなのは嘘だ。優香さんは当たり前のことを言っている。なのに、それについて謝罪してきている。
「なんで謝るんですか?」
と、聞いてみる。
「私がまだまだ未熟だからかな」
そう答えた。答えになってないと思ったのがわかったのか、えーとねと言葉を続けた。
「共感的理解ってのがあってね。すごく簡単に言うと、相手の立場に立って考えましょうってことなんだけど。で、それはカウンセリングの基本なんだけど私は苦手なんだよね。」
「それなのにカウンセラーやってるんですか?」
「それを言われると痛いかなぁ」
と苦笑いを浮かべている。そして、
「私は君の家庭環境や学校生活を変えてあげることはできない。でも、一つだけ私にいい案があるの」
いきなりそう言ってきた。何についてのいい案なんだろ?私はそう思った。
「聞いてくれるかな?」
優香さんが優しい笑顔を浮かべて聞いてくる。
「聞きたいです」
素直にそう答えると、嬉しそうな顔をしている。
「さっき君が言っていたように逃げ場がないことが君をここまで追い詰めてしまっている。だから、逃げ場を作るのはどうかな?」
「それって私に生きろってことですか?」
以外だった。屋上では優香さんは私が自殺しようとしても止めなかった。なのに今彼女は私に生きる道を提示してきているのだ。
「そうだね」
そう一言だけ答えた。
「逃げ場なんてありませんよ」
冷たくそう言ってしまった。しまったと思い顔を上げ優香さんの顔を見るとニヤついている。ムカつく。
「ねぇ、君は私とお茶をして話している時間は辛かった?」
「楽しかったです」
楽しい確かにそう感じていた。なので、私は思っていたことを素直に伝える。
「じゃあ、ここを君の逃げ場にするのはどうかな?」
「え?」
理解できなかった。何を思ってこう言ってくれているのかわからない。
「なんでこんなことを言うんだろうって思ってるみたいだね」
顔に書いてあるよと、優香さんはニヤついたままそう言ってくる。
「ニヤニヤしないでください」
少しムカついたのでそういうとごめんねと悪びれもせず謝ってきた。
「で、どうする?」
逃げ場ができればどうにかなるかもしれない。
でも、
「すみません。とても嬉しい提案ですが家にも学校にももう行きたくないので」
「なら私と一緒に住めば問題ないね。一緒に住むのが嫌なら私の叔父さんが管理人してるから事情を説明したら1室貸してくれると思うんだ。学校については、保健室登校って手もあるし辞めちゃってもいいと思う。もし辞めるなら私の手伝いをしてくれない?あ、ちゃんと給料は出すよ。」
と、ニコニコしながら言ってくる。おかしい。
私と優香さんは今日初めてあったはずだ。なのに、
「なんでですか?なんでそこまで私のことを気にかけてくれるんですか?」
心の底からの疑問をぶつける。
「一目惚れって言ったら怒るかな?」
頬を赤く染め、彼女は恥ずかしそうにそういった。
「へ?」
と、間の抜けた声が出てしまった。
「最初からキレイって伝えてたと思うんだけど」
本気で恥ずかしそうに言っているのでこっちまで恥ずかしくなってしまう。
「からかわれてるんだと思ってました」
そう言うと優香さんはなんでぇと不満の声をあげている。
気恥ずかしくなってお互い黙ってしまっていた。
そうしてしばらく気まずい時間が流れた。淹れてもらった紅茶が飲み終わってしまった。
ふと窓の外を見ると日が沈みかけている。
どうせ今日は死ねない。明日が今日と同じく晴れているとも限らない。どうせなら晴れてる日に死にたいそう思って今日決行しようとした。今日のような快晴がいつ来るかはわからない。なら、と思い声をかけてみる。
「あの」
緊張する。
優香さんは何も言わず私の次の言葉を待ってくれている。
「もし優香さんが迷惑じゃなければここを逃げ場にしてもいいですか?」
死ねないのであれば彼女の提案に乗ってみるのも悪くないのではないかと思う。あまりに自分勝手な話だとはわかっているが、提案してきたのはあっちなのだから文句を言われる筋合いはない。そう言い訳を考えていると、優香さんは笑顔を浮かべ
「もちろんよ」
と言ってくれた。
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