世間話
それから私は団地から5分くらいのところにある彼女の職場に連れてこられた。
「紅茶とコーヒーどっちがいいかな?」
目の前に座る彼女がそう聞いてきたので
「紅茶で」
と食い気味に答えると
「即答だね。今用意するね」
そう言って彼女は用意するために立ち上がった。
少しして彼女はコップを2つ持ってきた。1つを私の方に置き、もう1つを自分の方に置いた。
「砂糖とミルクはいる?」
「お願いします」
そう答えると持ってきてくれた。
「とりあえず、自己紹介してもいい?」
と聞いてきたので、こくり、と頷く。
「ありがとう。私は佐藤優香、ここでカウンセラーとして働いてるの。一応、26歳です。ついて来てくれてありがとう。」
ついて来たというより無理やり手を引っ張られて連れて来られたのほうが正しいと思う。
「私は、池田鈴です。」
そう短く自己紹介をした。
「スズって、可愛らしい名前だね。スズちゃんって読んでもいいかな?」
「ごめんなさい、私自分の苗字も名前好きじゃないのでできれば呼ばないでもらえると」
そう伝えると、彼女もとい佐藤さんは悲しそうな顔をして、
「ごめんなさい。じゃあ、さっきと同じで君って呼び方で大丈夫かな?あなたのほうがいいかしら?私のことは好きに呼んでいいから」
「君で大丈夫です。佐藤さんって呼ばせてもらいますね」
と言うと、微妙そうな顔をしている。そして、
「できれば優香さんのほうがいいかな」
と言ってきた。好きに呼んでくれといったのに不服があったらしい。
「わかりました。じゃあ優香さんで」
と素っ気ない態度で言ったにも関わらず、微妙な顔を嬉しそうな顔に変えた。屋上での会話の時と口調が変わっているなと思った。表情がコロコロ変わるのは一緒だ。とも思った。そういえばと、優香さんの方に置いてあるカップを見てみる。
黒い液体が入っているのでおそらく紅茶ではなくコーヒーを飲んでいるのだろう。その私の視線に気づいたのか
「飲んでみる?」
と言い、カップをこちらに出してきた。
コーヒーは飲んだことがないので気にはなっていた。お言葉に甘えてカップに口をつけ一口飲んで見る。
苦い。それ以外に感想が思い浮かばなかった。
個人的に美味しくないと思う。
「苦かったかな?」
「はい」
「そっかぁ」
と言い少し残念そうな顔をした。
「紅茶の方も飲んでみて」
そう促されたので飲んでみる。美味しい。久しぶりに飲んだな、いつぶりだろうと考えていると
「美味しい?」
そう優香さんが声をかけてきた。
「とても美味しいです」
と、答える。
「それならよかった。おかわりもあるからたくさん飲んでね。お茶菓子も用意するわね」
そう言ってまた立ち上がり、用意を始めてくれたのでありがとうございますと伝えた。
少しして、
「君は猫好きかな?」
そう聞かれたので
「好きですよ。可愛いですから」
そう答えると
「じゃあ黒猫が目の前を通ると不吉って迷信聞いたことある?」
そんなことを聞かれた。
「一応知ってますよ」
「じゃあなんでそう言われてるかは知ってる?」
と聞いてくる。
「いや、知らないです」
素直に答えると
「欧米だと黒猫って暗闇の中で光るの瞳が不気味がられたり、魔女の使い魔って言われてて嫌われてたんだって」
と教えてくれた。なるほど、しかし変でもあると思う。
「じゃあ、見るだけで不吉なんじゃないんですか?」
そう思って聞いてみると
「そうだよ。でも日本に伝わるときに色々な所の言い伝えがごっちゃになって伝わったんだよ。たしか魔女狩りがあったときの時代の民話にそういう記述があってそこが由来だったんじゃないかな。違ってたらごめんね」
と笑っている。知らなかったのであとで調べてみようと思った。そうしてしばらく色々な雑学を教えてもらいしながらゆっくり紅茶を楽しんだ。
時間がすぎるのはあっという間だった。気づけばもう日が傾いていてあと少ししたら日が沈む時間になっていた。
「えっと、そろそろいいですか?」
そう聞くと
「何が?」
と優香さんは何について聞かれているかわからないという表情をしている。
「えっと日が沈む前に開放してくれるって話でしたよね」
そういうとそうだったねと思い出したようで悲しい顔をしている。
「ごめんなさい。嫌なことを聞くようだけれど、やっぱりまだ死にたい?」
思い切ったことを聞いてくるなと思ったが
「そうですね。もう苦しい思いをするのは嫌ですから。」
そう伝える。少しの間だったが、彼女は他の人と違って私に優しくしてくれた。そんな彼女にこういうことを言うのは申し訳なく感じる。
「もしよかったら君が苦しんでる理由を教えてくれない?どうしても嫌なら大丈夫だから」
私の過去を知っても意味はないし
「なんでそんなに気にかけてくれるんですか」
単純にそう思った。
「私はカウンセラーだから少しでも力になれることがあるならと思って。それにキレイな子が相手ならなおさらだよ。」
そう笑顔を浮かべて言った。
「冗談で言ってたんじゃないんですね」
私もつられてクスッと笑ってしまった。いつぶりだろう。かなり久しぶりに笑った気がする。
「やっぱりキレイね」
茶化すような感じでなく本心からそう褒めてくれたのがわかったので恥ずかしくなって目をそらしてしまった。
それと同時にこの人なら話してもいいかなと思った。
「嫌な気持ちにさせるかもしれないですけど、私のこと聞いてくれますか?」
そう聞くと
「もちろんよ」
と、優しくうなずいてくれた。
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