違和感と違い
仲良く話している二人を眺めていると優香さんの対応に少し違和感を感じる。いつもより楽しそうに話している。そんな気がする。胸のあたりがなんだかモヤモヤする。何でモヤモヤしているのだろうかと少し考えてみることにした。多分優香さんの対応が違うからモヤモヤしているのだろう。まず、基本来客であれば私もお客様の話を一緒に聞いている。なので、私の分からない話をしていることは多々ある。だから、はじめに感じた仲間はずれにされているという疎外感がそう思わせているわけではないだろう。であれば、優香さんが笑顔だからだろうか。でもそれも違う気がする。面白い話などはたまにあるし笑顔で対応しているのだからよく見る光景だ。もう一度、二人の会話に意識を向ける。やっぱりいつもと違う感じがする。不意に
「私もそういうことあったなぁ」
と優香さんが言った。あ、わかったかも。
優香さんは今自分の実体験や考えを話している。普段のカウンセリングであれば相手の気持ちを上手に言葉にしたり、発言を繰り返したりしているのだが、今はカウンセリングというよりただ会話をしているだけに思える。もしかして、内容が恋愛についてのことだし相手が学生だから手を抜いているのかもしれないと思ったが、優香さんは前に
「カウンセリングする相手に年齢も性別も関係ないよ」
と言っていたのでそんなことはないだろう。ではなぜこの様な対応をしているのだろうか。そんな疑問が浮かび上がり後で聞いてみようと思った。
二人の様子を静かに眺めているとカウンセリングが終わった。時間にして一時間くらいだったのだがなんだか長く感じた。今回のカウンセリングでは難しい用語や心理学の言葉などはほとんど使わず、優香さんが彼女の話に共感したり背中を後押しするような言葉を多くかけていたなと振り返った。
「ありがとうございました。いくらになりますか?」
と奏さんが私に聞いてきたので、
「18歳以下であればカウンセリング料は発生しませんよ」
そう答えると、でもと言って納得してくれていない様子だったので
「もし気になるならまた話しに来てください」
と、優しく言うと
「わかりました」
と笑顔を浮かべた。帰り際、
「紅茶とても美味しかったです」
と言ってくれて嬉しかった。そして私に近づき
「お邪魔しちゃってすみませんでした」
と耳打ちしてきたので、どういうことか聞こうと思ったがその前に
「今日は急だったのに相談に乗ってくださりありがとうございました」
と笑顔で言って出て行ってしまった。礼儀正しくていい子だったのだが、最後の言葉がすごく気になった。それでも彼女の恋愛がうまくいくといいなと思った。
一日の仕事が終わり家に帰り、夕食を済ませたあと
「コーヒー飲みますか?」
とソファでくつろいでいる優香さんにそう声をかけた。お願いできるかなと言われたので、コーヒーを淹れそのコップをテーブルに置いた。優香さんはありがとうと言いコップに口をつけ、美味しいと呟いている。
「今日のカウンセリング中に気になったことがあったので理由を聞いてもいいですか?」
と聞いてみる。
「どのカウンセリング?」
と聞かれたので、奏さんのですと答えると
「いいよ」
と言ってくれた。なので
「奏さんの時のカウンセリングって普段と違くなかったですか?」
と自分の体感が間違っていたら恥ずかしいので気になったことをあえて指摘せず、少しはぐらかして聞いてみると
「ん?」
と言って不思議そうな顔をされてしまった。やっぱり直接聞くべきだよねと思い
「普段のカウンセリングって自分の実体験を元にした意見って基本言わないですよね?なのに奏さんの時は自分の意見を言っていたように見えたのでどうしてなのかなと思ったんです」
と疑問に思ったことをそのまま口にすると
「そうだね。あっ、そういうことね」
と一人で納得したようだ。何がそういうことなのだろうかと思っていると
「リンちゃんはあの子が最初に言っていたこと覚えてる」
と質問を返された。優香さんとあの子の会話を思い出してみる。
「確か恋愛相談なんでしたけど大丈夫ですかでしたっけ?」
奏さんはそんなことを始めに聞いていた気がする。
「そうそう」
と頷いている。
「えっと、何でそんなこと聞いてくるんですか?」
質問された意図が分からなかったので聞いてみた。
「恋愛相談なんだよ」
と言われた。いまいちどういうことかわからない。私がそう思ったのがわかったのか
「まだわかってないね」
と優香さんはニコニコしている。
「どういうことですか?」
この場合ムキになってわかったふりをしても話は進まないので素直に聞く。わからないことは素直に聞くべきだよと優香さんも言っていたので実践している。
「そもそもカウンセリングじゃないってことだよ」
「は?」
とつい言ってしまった。
「面白い反応するね」
と優香さんは爆笑している。
「いやだって、カウンセリングしてないって言われたら驚きますよ」
そう言うとそうかなぁと言っている。
「ま、そういうことだから。で、リンちゃんは相談の意味わかる?」
と軽く流し、あとそう聞いてきた。
「相談ですか?ちょっと待ってくださいね」
と言いスマホで調べてみる。
「どうすればよいかなどについて、意見を述べ合ったり、意見を述べてもらったりして考えること。って出てきますね」
と調べた結果をそのまま伝える。すると
「一応補足として相談はカウンセリングと違って自分の経験や知識から意見を言ったり解決策の提案をしたりするんだよ」
と教えてくれる。さらに
「私は相談ってもちろん調べた通り他の人の意見を聞きたい場合もあるけど、どっちかといえば話を聞いてほしいとか背中を押してほしいとかの方が多い気がするなぁ」
と優香さんが思っていることを付け足す。そして
「奏ちゃんは高校生だし恋愛話は学校でもすると思う。だけど、私を頼ってきた。なんでだかわかる?」
と私に聞いてきたので首を横に振る。
「多分彼女は恥ずかしがり屋さんなんだと思うよ。話し始めは目をあまり合わせてくれてなかったしね。だから友達じゃなくて、事情を全く知らない私に話を聞いてもらいたかったんじゃないかな」
と優香さんが優しい笑みを浮かべながらそう言っている。純粋にすごいなと思った。相手の行動から性格を見抜きそれに合わせた対応を考えて実行している。私にはまだまだできそうにもない。
「相手の性格とかって毎回わかるんですか?」
ときになったことを聞いてみる。
「絶対当たるってわけじゃないけどそれなりかな」
と笑いながらそう言った。それでもすごい。優香さんは何でもできるのではないかと思う。なので、
「カウンセリングや相談を受ける上で苦手なことってないんですか?」
と聞いてみた。すると
「前も言ったけど共感的理解は苦手かな。そのせいで私の体験してないことは理解しづらいかな。例えば今日の恋愛相談とかね」
と言い苦笑いを浮かべている。
「なんでですか? 今日すごくいい感じに相談に乗ってなかったですか?」
と言うと
「それは彼女が私の知識でカバーできることしか言ってこなかったからだよ。だって私は彼氏居たことないからアニメとか小説の知識だけだし」
と笑って言っている。そうなんだとほっとした。
優香さんから聞いたカウンセリングと相談の違いをスマホのメモアプリにメモし終わったときおかしいなと思った。私は何で優香さんに彼氏が居たことがないと聞いたときにほっとしたのだろう。
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