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魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
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第5話 “選ばれし少女たち”(その1)


「お姉さん」


「エミさんで、いいわよ」


「そういえば、魔法使いなのに、なんで『窓を開けて』って、頼んだんですか? 魔法使いなら、簡単に入って来れたんじゃ?」


 ケイトが先ほどのことを思い出してエミに尋ねた。


「なかなか、いい質問ねえ」

 

 エミは、腕組みをしてほほ笑んだ。


「いきなり、この部屋に私が現れたら、ケイトちゃん、腰を抜かすでしょう?」


「確かに……」


「ふふ……。それもあるけど、空間移動の魔法って、実はかなり高度で難しいのよ。特にこうしたガラスで仕切られた密室の中に移動するのは、至難の業なの」


 よくみると、エミの“実体”は、少々疲れたような顔をしている。

 スーツも何かくたびれた感じがした。


「エミさん、この部屋までは、空でも飛んできたんですか?」


 ケイトの質問にエミの瞳がキラリと輝いた。


「そう、その通り。空を飛んできたのよ」


「魔法少女になったら、空も飛べるんですね!

 やっぱり、ほうきに乗ったりするんですか?」


「いやあねえ、ホーキなんて古典的なものは使わないわよ。

 今は“ルンバ”ね、もちろん」


「?」


 エミは冗談を言ったつもりらしいが、ケイトには伝わらなかった。


「ゴメンなさい、今のは忘れてちょうだい。

 なかなか話が前に進まないわね」


 自分で話を長くしておきながら、変な人だと、ケイトは思った。


「箒を使って飛ぶというのは、空中では体がなかなか安定しないから使っているだけなのよ。

箒を飛行機のような“乗り物”に変えているわけじゃないの。

 私たちの身体が、魔法の力で、鳥や蝶のように、“飛行可能”な物体に変わるわけね」


 ケイトにはエミの話がよくわからなかった。


「あら、この話、あなたには難しかったかしら?

 この間、魔法少女になった“サキ”ちゃんは、すぐに理解してくれたけど」


「ほかにも魔法少女になった子がいるんですか」


「もちろんよ、今回、私のところでは、5人の魔法少女を選ぶことになっているの。

 あなたで、4人目よ」


 サキとはどんな女の子なんだろう。ほかの2人はどんな子なのか、ケイトは気になったが、聞く暇がなかった。


「ああ、時間がないわ。

 取敢えず、あなたがどれぐらいの魔法使いなのか、これから試させてもらいます」


 エミはケイトに向き直ると、“手品”のように、何もない空間から、自分のマジック・ワンドを取り出した。


「あなたに渡した、そのマジック・ワンドを、私の真似をして振ってちょうだい」


 エミは右手でワンドを持って胸の前に垂直に構えると、軽く目を閉じて、自由の女神のように、右上に振りかざした。


「さあ、やって」


 ケイトが躊躇していたので、エミが急かした。

 しかたなく、ケイトはエミの真似をして、ワンドを胸の前に翳して、右上に振り上げた。


「Verwandle dich in dein wahres Selbst (真の自分の姿に変身せよ)」


「え?」


「呪文よ、真似して唱えて」


「む、無理です」


「真似でいいわよ」


「ふゃわんら、ぢひい、でぃん、わる、せっつ??」


 ケイトが、謎の呪文を唱えると、全身に軽い電気ショックのようなものを感じた。

 何が起きたのか、わからなかった。

 髪の毛を誰かに引っ張られるような感触と、全身の肌が夏のプールで日焼けしたあとのようにピリピリとした。

 しかし、それも一瞬のことで、驚きで目を開けると、自分の服装が、中学の制服から、“魔法少女”の“それ”へと変わっていた。

 リビングの窓の映った自分の姿にはっとして、自分の全身をあちこち見回した。


「あ、これがコスチュームですか?」


「そうよ、カッコいいでしょ」


 黒のワンピースでフレアのスカートは、ゴシック・ロリータのようなスタイルだ。

 髪は後ろでまとめられ、黒のヘッドドレスが付いている。

 黒以外の色としては、胸元と腰のリボンに唯一紫色が使われているところだろうか。

 確かに“黒”を基調としたこの衣装はおしゃれではあるが、正直言って、ケイトの好みではなかった。

 ケイトが憧れていた魔法少女のコスチュームの色は、“ピンク”か、“白”だった。

 黒というのは、魔法使い的ではあるが、魔法少女的ではない気がする。

 黒は、英語では“ブラック”であり、やはり“悪”とか“闇”とか、白のメジャー系に対して、マイナー系、ポジティブに対して、マイナーなイメージだ。


「あの、このコスチュームの色って変えられないんですか?」


「それは無理ね」


 エミは先ほどとは違って冗談めかした表情にはならず、真剣な面持ちで答えた。


「そのマジック・ワンドは、いわば、触媒なの。

 それを振るった人の真の能力を引き出すのよ。

 あなたが、“真の姿を見せてちょうだい”とそのワンドに念じたから、その姿になったわけね」


 エミは胸元からアンティークな懐中時計を取り出して、時間を確認した。

 スマホでも時間が確認できる時代に、わざわざ古めかしい懐中時計を使っているところは、なんか魔女らしいような気がしないでもなかった。


「あれ、もうこんな時間だわ。ちょっと待ってね」


 エミはワンドを同じように胸元に翳して、今度は呪文を唱えずに、「えい」と軽く気合いを入れて右から左へ振った。


「これで、よしと。……、少しは時間が稼げるわ」


「何をしたんですか?」


「あなたのご両親が帰ってきて、あなたがいなかったら心配するでしょ?

 だから、ちょっとだけ足止めさせてもらったの。

 ご両親が帰ってくる時間、少しだけ、遅くなるわよ」


 エミが何をしたのかはよくわからなかったが、どうやら、ケイトのパパとママの帰りを遅くするための魔法をかけたらしかった。

 でも、そんな魔法をかけなくたって、今日は、二人とも、帰ってくるのは遅いにちがいない。

と、ケイトはそう思ったときだった。

ケイトのスマホの着信音がなった。

パパとママからのメールが届いていた。

それぞれ別々の場所から、ほぼ同時のメールだった。


『ケイトちゃん

 お誕生日おめでとう

 今日は仕事で帰るのが、少し遅くなります

 戸締りをきちんとして、先にお休みしててね』

 

 ママからのメールだ。


『ケイト、お誕生日おめでとう

 帰りが遅くて、今日は祝ってあげられないのが残念です。

 今度、時間が空いたら、ママと一緒に食事にでも行きましょう』


 パパからも変なメールが届いた。


「これも、魔法?」


 ケイトの質問にエミが首を横に振った。


「そのメールは、違うわよ。

 ふーん、ケイトちゃん、愛されてるのねえ」

 

 いつの間にか、エミが横に回り込んでメールの文章をのぞき込んでいたので、ケイトは、反射的にスマホの画面を胸で伏せて隠した。


「さて、準備も整ったので、早速テストに出かけましょうか」



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