南の魔法使い 2
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――ねえクリストフ。王様の命令でわたしと結婚させられて、思うところはないわけ?
夜、不意に目を覚ましたクリストフは、昼間オデットに言われたことを思い出して小さく笑った。
薄暗い寝室のベッドの上。クリストフの隣では、猫のように体を丸くしたオデットが、すやすやと幸せそうな寝息を立てている。
腕を伸ばして、ぷくぷくした頬にかかっている金髪をはらってやると、オデットがくすぐったそうに首をすくめて、むにゃむにゃと言葉にならない寝言を言った。
「ふふ、可愛い……」
中身が大人の女性だから当然だが、今のオデットは中身と外見がちぐはぐで、まるで一生懸命背伸びをしているませた女の子みたいだ。
(まったく思うところがないわけじゃないんだけどね)
さすがに、目の前で二十七歳の美女が七歳児に姿を変えたのを見たときには度肝を抜かれたし茫然としたものだ。
オデットが気を失っているときに、父王からも、結婚をなかったことにするかと確認された。
クリストフの中にはオデットとの結婚しない選択は存在しなかったから即座に否定したが、今と同じようにあどけない顔をして眠る彼女を見ながら、これからどうしたものかと悩んだことも事実だ。
でも、やっぱりオデットと離れる選択はできなくて、逆にこれはチャンスではないかとも考えた。
クリストフはオデットのことを女性として愛しているが、オデットはクリストフを子供としか見ていない。それにははじめから気づいていたし、彼女が結婚に後ろ向きな姿勢であることも知っていた。
男の方が年上の十一歳差ならば貴族社会では珍しくないが、さすがに二十七歳の成熟した女性には十六歳の男は子供すぎる。
クリストフがいくら背伸びしようとも、オデットはクリストフを大人の男としては見ないだろう。
しかし外見だけで言うなら、今のオデットは子供だ。
このままオデットが十六歳、十七歳ごろに成長すれば、クリストフは二十五、六になる。さすがに二十代半ばにもなれば、オデットだってクリストフを子供だと思わないだろう。ここから十年は長いが、十年もあれば、オデットもクリストフを男として見てくれるようになるかもしれない。
それに、子供の姿になったせいで、もともとの魔女の力の大半を失っているオデットは、クリストフのもとから逃げ出して一人で生活なんてできない。逃げられる危険のない間にオデットがクリストフを好きになってくれれば、きっとオデットはクリストフのもとにずっといてくれる。
(我ながら情けない考え方だね)
――でも、あんな衝撃ははじめてだったんだ。
「たぶん僕は、もう君以外愛せない」