七歳になりました 4
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「ただいま、オデット。お土産だよ」
夕方になってクリストフが戻ってきた。
玄関まで出迎えたわたしに、お土産と言って、城の料理人が作った美味しそうなお菓子の入った箱を見せてくる。
お菓子につられたわたしが反射的に腕を伸ばすと、クリストフはわたしにお菓子を手渡した後でひょいとわたしの体を抱き上げた。
急に視界が高くなってびっくりしていると、クリストフがにこにこと笑う。
「不自由しなかった? ほしいものがあったら何でも言ってね」
ほしいものと言われても、大きなお邸も、ふかふかのベッドも、美味しい食事も、何もかも手に入れたわたしにほしいものは思いつかない。強いて言えば魔力だが、こればかりは体が成長しないと無理な話だ。
クリストフに抱きあげられたまま夫婦の部屋へ行き、夕食前だから少しだけだよと釘を刺されながら、彼が持ち帰ったお菓子を食べる。
クイールはクリストフが帰ってくる少し前に、ふらりと散歩へ出かけて行った。縄張りの見回りだろう。
もぐもぐとチョコレートケーキを食べていると、わたしが食べる姿を微笑ましそうに観察していたクリストフが、思い出したように言った。
「そう言えば新婚旅行だけど、予定通り一週間後からでいいかな?」
「うぐっ」
新婚旅行、と言われてわたしはチョコレートケーキをのどに詰まらせた。
そう言えばそんなイベントがあった。すっかり忘れていたが、七歳児のわたしを連れて、クリストフは本当に新婚旅行へ行く気だろうか。
降ってわいた結婚話にぼけーっとしていたから、新婚旅行の話をされたときのことも曖昧だが、確か南に行くと言っていた気がする。
紅茶でケーキを押し流し、ふーっと息を吐きだす。
「新婚旅行、行くの?」
「うん」
「どこに行くんだっけ?」
「ヴェーレ地方だよ。大きな滝と東西に長い湖あって、水の都とも言われているとても綺麗なところだよ。オデットも気に入ると思う」
ヴェーレか。たしかあのあたりには、師匠の弟弟子がいるはずだ。会ったことはないけど、そんな話を聞いたことがある。
……ダメもとで、体を元に戻す方法がないか訊いてみようかしら。
魔女や魔法使いはあまり慣れ合わないけれど、師匠の弟弟子なら多少は協力してくれるかもしれない。
「わかった、行く」
わたしが頷くと、クリストフがぱあっと顔を輝かせる。
う……眩しい……。
クリストフはなまじ顔が整っているから、満面の笑みを浮かべると本当に天使のようだ。
「じゃあ、準備させておくからね。あ、オデット、ほっぺたにチョコレートがついてるよ」
クリストフが腕を伸ばして、わたしの右頬についていたチョコレートを掬い取ると、指先についたそれをぺろりと舐める。
「うん、甘いね」
「…………」
不覚にも、どきりと鼓動が高鳴る。
外見七歳児の中身二十七歳が、十六歳の王子にときめくとか、すごく間違っている気がするのに、なんかドキドキするのは何故だろう。
昨日一緒に寝たときも、さっき抱き上げられた時もちっともドキドキしなかったのに、今のと何が違うのだ。
ぼぼぼと赤くなったわたしに、クリストフはきょとんとしたあと、何を思ったのか、わたしの手からフォークを奪って、チョコレートケーキをすくいあげた。
「はい、あーん」
これは何の羞恥プレイだろう。
わたしは真っ赤な顔のまま、口を開けた。