エピローグ
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「オデット、はい、あーん」
「あーん」
ヴォルフを封印して一夜明けた。
ベッドの上に寝たままのわたしに、クリストフがすりおろしたリンゴを口に運んでくれる。
魔力が完全にゼロになるまで使い果たしたわたしは、ただいまベッドに寝たきり状態だ。
二日もすれば元に戻るだろうが、今は全身に倦怠感があって、寝返りひとつするのもしんどい。
同じく魔力を使い果たしたクイールは、自分に与えられた部屋でぐーすかと熟睡中らしい。
クリストフも全身包帯だらけだ。魔力が回復したら治癒してあげないと、あまりに痛々しい姿だった。
……傷だらけなのに、わたしの世話は焼くとか、クリストフらしいけど心配だわ。
わたしにすりおろしリンゴを食べさせ終えると、クリストフがよしよしと頭を撫でてくれる。
「まだ疲れた顔をしてる。ここにいるから眠りなよ」
「それはクリストフもでしょ」
クリストフは怪我を負ったし、疲労困憊でもあるので、国王陛下からしばらく休みをもらったらしい。二週間ほど邸でのんびりできるそうだ。
「じゃあ僕もオデットと一緒にもう一眠りしようかな」
そう言ってクリストフがわたしの隣にもぐりこんだ。
怪我が痛いだろうに、わたしを抱き寄せて腕の中に閉じ込める。
クリストフのぬくもりに包まれて、ぽんぽんと背中を叩かれるのが心地いい。
「今回僕は全然役に立たなかったけど、次は君を守れるように、もっと強くなるからね」
クリストフがそんなことを言うけれど、それを言うならわたしの方だ。
ヴォルフとの一戦で、魔人相手だとエメラルドとシトリンの二つの宝石に魔力を充電していても、まともに戦えないと言うのがわかった。
不幸中の幸いと言うべきか、ヴォルフが王都に来てくれた逆にラッキーだったといえる。今回クイールがいなければ、わたしたちは全滅していただろう。
わたしたち現代の魔女や魔法使いは、魔人や魔物の数が激減してから生まれた世代だ。わたしを含め、魔人の恐ろしさを本当の意味で理解しきれていなかった。
……ほんと、クイールが例外中の例外なんだわ。
ヴォルフとの戦いでわかった。力の大半を失っている状況でも、クイールはわたしを殺すだけの力がある。それなのにわたしを殺さず、人も食べない魔人なんて、クイールくらいなものだ。
魔人も人と同じように個々で性格が違うらしいが、大半の魔物は人を餌としか認識していない。
ヴォルフのように当然のように人を食う魔人は、今後も現れるだろう。
世界にどれだけの魔人が封印されていて、どれだけの封印が解かれたのかはわからないが、クイールとヴォルフだけというのは考えにくい。
……サーリアが言っていた仮面の魔法使いっていうのも気になるのよね。
魔人の封印を解いて回っているのがその仮面の魔法使いかどうかはわからない。だが、サーリアをそそのかしてクイールの封印を解かせたことから考えても、危険人物であるのは間違いないだろう。
魔人の封印は世界各地に散らばっている。クイールは壺に封印されていたが、封印の媒体は壺だけに限らない。封印がどこにあるのか定かではない以上、封印を解かれることを懸念してそれらをすべて回収して回るのは難しいだろうし、もっと言えば、封印の媒体を一カ所に集めるのは危険なのだ。
もしも魔物の封印が解けたときに、魔人が一カ所に固まっていたら、たぶん、全世界の魔女や魔法使いを全員集めても太刀打ちできないだろう。
最終判断は「白き最北の魔法使い」――現在の魔女や魔法使いを束ねている長が判断することになるだろうが、封印を回収して集めることにはならないと思う。
あー、そういえばサーリアの件もいつまでも黙ったままではいられないわね。
今回のヴォルフ討伐の功績をつけ加えて、クイールの封印を解いた罰と相殺してもらえないかしら。まったくおとがめなしにはならないかもしれないけど、厳罰は免れるわよね?
「……ふわぁ」
クリストフの腕の中にいるからか、だんだん眠気に抗えなくなってくる。
もう少し考えたいことがあるけど、まあ、急いで考える必要もないかしら?
すりすりとクリストフの胸に額をこすりつける。
クリストフが小さく笑う声が聞こえた。
……なんかいろいろあったけど、ここがすっかりわたしの定位置になりつつある。
「おやすみ、僕の可愛いオデット」
クリストフの優しいささやきが耳に落ちて。
わたしは「夫」の腕の中で、幸せな眠りについたのだった。
お読みいただきありがとうございます!
これにていったん完結とさせていただきます。
(このあとも話を考えているので、いつか書きたいなと考えていて……需要があればどこかで第二話をはじめるかもしれませんが、現状未定です)
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