灰色の魔人ヴォルフ 2
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北門に到着すると、サーリアが宮廷騎士団の団員の配置を指示しているところだった。
北門付近には近づきすぎないようにと言っている。
「パトリシアはこれを構えていて」
サーリアはそう言って、あまり大きくない盾をパトリシアに渡した。見れば、中央に緑色の大きな魔石がはまっている。
「サーリア、これ」
「ドルーイットから回収した魔石を使ったのよ。使うのに魔力がいるけど、広範囲に結界が張れるようにしてあるわ」
……サーリア、魔道具作れたのか。
コルドは火魔法に耐性がある。火属性のパトリシアは攻撃に回るより、盾を構えて支援に回っていた方が効率がいいだろう。
もう一人の火属性の魔力を持っているイタンは、簡単な土の攻撃魔法を習得ずみだと言うから攻撃に回るらしい。
前回のコルド討伐から数日。宮廷魔術団の団員は確実に成長している。
「魔術団のみんなの指示と支援はわたしがやるから、あんたは魔人に集中して」
「わかってる」
クリストフに馬からおろしてもらって、わたしは杖を片手に北門を睨む。サーリアが張った光と闇の結界が、金色と黒の薄い膜のように広がっている。
馬を離れたところにつないで、クリストフがわたしの隣にやってきた。
「クリストフ、危ないから少し離れていた方がいいよ」
わたしの隣にいたら危ない。それなのにクリストフはきょとんと目を丸くした。
「何を言っているのオデット、僕ももちろん戦うよ」
「え!?」
「どうして驚くんだろう。何のためにこの剣を作ってもらったと思ってるの?」
クリストフが腰に佩いている剣の柄を握って存在を主張する。それはわたしがコルドの魔石をはめ込んだクリストフの愛刀だ。でもまだそれは正しく作動するかどうか調べてない。それに――
「それがきちんと機能したとしても水属性だから、同じ水属性のコルド相手には大きなダメージは与えられないわよ!」
「そうだとしても、この剣でコルドの魔力を吸収出来れば、宮廷魔術団も戦いやすくなるんじゃない?」
「それは……」
クリストフの言う通り、コルドの魔力を吸収し奪い取れれば、討伐も楽になるだろう。しかしそのためには、クリストフはその剣でコルドを傷つけなければならない。つまり、近距離で切り込む必要がある。
「危ないわ!」
「オデット、これに結界魔法も作動するようにしてくれてるんでしょ? もし反撃があっても大丈夫。違う?」
「でも確実に防げる保証は……」
「逆に聞くけど、オデットは自分が無傷で魔人を倒せる保証がある?」
「……ないけど」
「じゃあ、僕も一緒でしょ? むしろオデットの方が絶対に危ないんだから、僕のことを気にする必要はないよ。第一、妻が戦っているのに夫が後ろで縮こまってるなんてカッコ悪いと思わない?」
「そう言う問題じゃないでしょう?」
わたしは何とかしてクリストフを説得しようと試みたが、彼は頑として譲らなかった。……クリストフは思ったより頑固。うん、覚えた。
「絶対無理しないでね」
「もちろん。無理をしたらいざってときにオデットを守れないからね」
「わたしを守ろうとしなくても大丈――」
「あ、オデット、クイールが来たよ」
わたしを気にするより自分の身を守れと言いたかったのに、クリストフはわたしの言葉を遮って、悠然と屋根の上を飛び移りながら歩いて来たクイールを指さした。
「お前ら悠長に話し込んでる余裕がどこにあるんだ。ほら、来るぞ」
クイールがくいっと顎をしゃくる。
ハッとして振り返ると、ゆらりと揺れる金と黒の結界の膜の向こうに、十数匹のコルト度、灰色の長い髪をした魔人の姿が見えた。