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七歳になりました 2

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「炎よー!」


 暖炉に向けて両手を突き出して念じる。

 ぽっと小さな小さな音がして、豆粒くらいの小さな火の玉が暖炉の薪まで飛んでいき、ボッと火をつけた。


「おお! 火がついたよオデット、すごいよ。偉いね」

「……」


 本来なら、本気になればこの邸を一瞬にして消し炭にできるほどの火力があるのに、出せたのは豆粒の大きさの炎だけ。それを夫から手放しでほめられて、わたしの自尊心がしおしおとしぼんでいく。


 ……わたし、これからどうなるの?


 夜になって、クイールは散歩に行くと言ってどこかに消えていった。


 自由気ままなクイールは、オデットのそばを「巣」にしているが、いつもべったりひっついているわけではない。かなり力を失って黒猫に擬態しているし、彼曰く「グルメ」らしいので、人はよほどのことがない限り襲わないという。放っておいても害はないので、わたしもクイールの行動にいちいち干渉していない。


 わたしが暖炉に火をつけると、クリストフも部屋にいたメイドたちもぱちぱちと拍手をしてくれる。

 まるで大道芸人にでもなった気分だ。はずかしい。


「今夜は雪が降りそうですから、温かくしてお休みくださいませ」


 メイドたちがそう言って部屋を出て行くと、わたしはクリストフとともに「夫婦の寝室」に取り残される。

 初夜を演出するために真っ赤な薔薇の花びらで飾られている大きなベッドを見て、わたしははーっとため息だ。


 わたし、ここで寝るの?


 クリストフもいろいろ思うことがあるんじゃないかなあと思っていると、彼は特に気にした様子もなく、ふいにわたしをひょいと抱き上げた。


「今日寒いんだって。温かくして眠らないとね、オデット」


 ふと思ったが、幼児化してからクリストフの言葉遣いが敬語でなくなっている。まあ、七歳児に敬語で話される姿を想像するとあまりにシュールなので、今のままで全然大丈夫だが、やはりあれだろうか、彼の目にはわたしは子供にしか見えていないのだろうか。中身が二十七歳のわたしは複雑だ。

 ベッドまで運ばれて、肩まで布団をかけられると、布団越しにポンポンとお腹の上を叩かれた。


「おやすみ、オデット。眠れそう? 子守歌歌ってあげようか?」

「……おかまいなく」


 悪気はないのかもしれないが、この王子、わたしの精神力をごりごりと削っていくな、おい。


 しかも結局一緒に寝るのか。


 結婚式をして、結婚誓約書にサインをした以上、わたしがたとえ七歳に戻ってもわたしとクリストフは夫婦である。

 曲がりなりにも新妻が七歳児にされたというのに、この王子様はふわふわと微笑んでいて、あまり堪えた様子はない。


 天然王子かと思ったけど、実は結構な大物なのかしら。


 クリストフにぽんぽんと布団越しにお腹を叩かれていると、瞼が重くなっていく。

 頭は二十七歳のままだが、体はすっかり子供なので、夜更かしはできない体質のようだ。


 ……なんかいろいろ屈辱だけど、この姿ではどこにも行けない。


 新婚の夫が、わたしが七歳児に戻った瞬間に「離婚だ!」と言い出さなかっただけ、恵まれていると、プラスに考えるべきだろうか。

 なんだかんだ言って、今の状況で外に放り出されると困るのはわたしである。

 この姿では、サーリアを探し出すこともできないし、探し出したとしても仕返しできない。


 ……それにしてもサーリアって、あんなに魔力あったかしら?


 いくらわたしが杖を持っていなかったとはいえ、何の抵抗もできずに子供にされるほど、実力差があっただろうか。


 サーリアとは孤児院を出て行ってから会っていないから、五年ぶりだ。もしかしたら、その五年間、一生懸命修行していたのかもしれない。

 わたしは五年間樹海に閉じこもって隠居生活を送っていたから、サーリアが五年間必死に修行をしていたなら差がついたって当たり前だ。

 もっと言えば、結婚式のあとどうやって逃亡しようかそればかりを考えていて、警戒心の欠片も持ち合わせていなかった。


 すべて自分が招いたことだ。過去をやり直せるならやり直したいが、いくら魔女でも過去に戻ることはできない。


 うつらうつらしながら、考えたって仕方のないことを考えていると、本格的に眠くなってくる。

 わたしが完全に眠りに落ちる前、クリストフがわたしの耳にそっとささやいた。


「大丈夫だよオデット。僕は君の夫だから、君のことは絶対に僕が守るからね」




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