水の剣 1
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「ねえオデット。ジェレミーが魔法で作り上げた武器を見て思ったんだけど、魔力がなくても魔物や魔人に攻撃できる武器ってないの?」
クリストフがそんなことを言い出したのは、コルドの青い魔石を片手に、この魔石を何に使おうかと考えていたときだった。
クリストフは今日はお休みで、朝からわたしを膝の上に抱っこしてのんびりしていた。
わたしはわたしで、すっかり定位置になりつつあるクリストフの膝の上で、魔石を手の上でころころさせていて、それを見たクリストフが、先日のコルド討伐の時のことを思い出したらしかった。
わたしは「およ?」と首を傾げる。
「魔力がなくても魔物や魔人に攻撃できる武器?」
「うん。そういうのがあれば、国としても対魔物に対してもっと戦力強化できるだろうし、僕も使ってみたい」
「クリストフが?」
いつもにこにこしているクリストフが武器を持って戦う姿はあまり想像できないが、いつもクリストフに抱っこされているわたしは、実は彼がいい筋肉をしていることを知っている。大きな手には剣だこもあるし、愛用の剣も持っているし、それなりの使い手なのかもしれない。
……そう言えば第二騎士団の団長はクリストフだったわね。王子と言うだけで選ばれたのかと思ってたけど、実力も伴っているのかしら。
なんとなく、わたしのお腹に回されているクリストフの腕をもみもみしてみる。うん、硬い。
「オデット、くすぐったいよ」
「あ、ごめん」
いや、いい筋肉だなと思ったらつい、ね。
マッチョすぎるのは嫌だけど、クリストフくらいの筋肉のつき方なら、なんか――いいよね。
腹筋割れてるのかな? クリストフが脱いだところを見たことがないけど、割れてそうだよね。見てみたいなあ。……あ、やばい、生唾が。
わたし、筋肉フェチじゃなかったはずなんだけど、なんかクリストフの体はぺたぺたと触ってみたくなる。
でも、魔力がなくても魔物や魔人に攻撃できる武器かあ。師匠が残した資料にないかな。
師匠は膨大な魔法書を保有していて、そのほとんどはわたしが相続した。樹海の家に置いていた魔法書は、今ではすべてラファイエット公爵邸に運び込んでいる。クリストフが魔法書のために一部屋くれたからだ。
クリストフの言う通り、もし魔女や魔法使いでなくても魔物や魔人に対して攻撃できるようになったら、戦力の大幅アップが見込める。
そんなこんなで、わたしはクリストフとともに、魔法書を置いている部屋に移動した。
魔物や魔人に攻撃するなら魔力のこもった武器でないといけないわけで、そうなると魔道具の応用になるのかしら。
「オデット、本は僕が取るからね」
クリストフがそう言ってわたしを床に降ろす。
壁一面に天井まである本棚が並んでいる部屋には当然踏み台は置かれているが、わたしが一度踏み台から落ちかけてから、クリストフから使用禁止令が出ていた。そして使用禁止令を破って踏み台に乗ったのがばれて、怒られたこともある。
……クリストフは笑顔で怒るから怖いんだよね。
わたしは頷いて、魔道具の作り方の魔法書を探す。
めぼしい本を数冊クリストフに取ってもらって、ローテーブルの上に置いてもらった。
ソファに寝そべって本を開くと、クリストフがアイリスを呼んでお茶とお菓子を用意してくれる。
クリストフはわたしの側からは離れないが、わたしの読書タイムは邪魔しない。彼は魔法書に興味を覚えたのか、ただ暇なだけなのか、わたしが読んでいない一冊を取り上げて、わたしの隣に座って読みはじめた。
窓の外では雪が降っているが、部屋の中は暖炉が燃えていてぽかぽかと暖かいので、本を読んでいるとちょっと眠くなってくる。体が子供だからか、集中力が続かない。
ページをめくる動作が緩慢になって、こくりこくりと舟をこぎはじめたとき、クリストフに呼ばれた。ハッと顔を上げると、魔法書に視線を落としているクリストフが、心なしか目をキラキラさせている。
「オデット、これじゃないかな?」
「……どれ?」
ふわあっと欠伸をして、クリストフの手元を覗き込んだ。
眠そうなわたしを膝の上に抱きあげて、クリストフが開いているページを見せてくれる。
「ほら、これ。剣みたいな形をした魔道具みたいだよ」
「んー? ……ほんとだ」
読んでみると、杖の作り方と似ている。だが決定的に違うのは、杖は持ち主の魔力を増強するのだが、ここに書いてある剣は持ち主の魔力の増強するものではなく、剣自体に魔力を宿すようである。
「魔道具の応用? でも魔道具は……」
魔道具は、魔石を核として作る。それは魔力がない人間にも使うことができるが、それは、魔石が自然界にある微量な魔力を吸収し集め、そして増幅させて作動するからだ。同じ原理で剣に魔力を宿すのだと思うけれど、そんな微量な自然の魔力を集めて増幅したところで、どこまで魔物に通用するだろう。
うん、あんまり役に立たなさそうだな。
そう思いながら何気なく次のページをめくったわたしは、はた、と手を止めた。
「……魔力吸収?」
わたしは思わず、首から下げているエメラルドに触れた。
思わぬところで思わぬ記述を見つけてしまった。
「切った魔物の魔力を吸収して剣の魔石に蓄積?」
魔道具としての剣にこの性質を付加すれば、そこそこ使える剣が作れるかもしれない。
そしてもしかしなくても、元碧き湖底の魔法使いは、この原理を応用して、魔力を蓄積できる宝石を作り出したのだろうか。
……これは研究の価値あり!
とりあえず、ここに書いてあることを組み合わせて、魔道具――魔法剣を作ってみますか。
すっかり眠気の飛んだわたしは、意気揚々と、さっそく魔法剣作りに取り掛かることにした。




