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【書籍化】幼児化したらなぜか溺愛されています  作者: 狭山ひびき


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宮廷魔術団の初仕事 1

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「クイール、あんた、いい加減あいつら消しなさいよ」


 玄関ホールを跳ね回る真っ黒いウサギに、飛び回る小鳥たち。そして駆け回るモルモット。

 クイールが魔法で作り上げた「動物もどき」を指さしながら、階段の七段目に寝そべってごろごろしているクイールをわたしはじっとりと睨みつけた。


 これらの「動物もどき」はラファイエット公爵家の使用人――おもにメイドのお姉さんたち――のおねだりによって生み出された存在である。


 わたしたち魔女や魔法使いは、風魔法で伝達用の動物もどきを生み出すことができる。

 それは魔人も例外ではないと知ったのは、わたしとクリストフの新婚旅行先に、クイールが伝達用のカラスをよこしたときだった。


 わたしは少ない魔力をせっせとエメラルドに貯めている最中なので、魔力消費が少ないとはいえ、不用意に魔法を使いたくない。

 だがフィオナとアイリスがアシルがよこした白鳩もどきを気に入っていたようなので、迂闊にもクイールにでも頼んでみろと口走ってしまった。

 その結果がこれである。いい加減鬱陶しい。


「あ? もとはと言えばお前が言い出したんだろーが」

「迂闊なことを言った過去の自分を猛省中よ」

「ぷっ!」

「笑ってないでさっさと何とかしろ!」

「そう言うなって。こいつらはこれで使い勝手がいいんだ。このままにしとけ」

「は? どういう意味?」

「そのうちわかる」


 クイールはそう言うが、二十匹は超える動物もどきにいつまでも玄関に居座られては困る。

 クリストフは「何か賑やかになったね」と笑っていたが、そう言う問題でもない。というかこの状況を見て笑っていられるとか、クリストフは大物だ。


「奥様、お昼ご飯はオムレツとスクランブルエッグ、どちらがいいですかと料理長が」

「オムレツ‼」


 わたしとクリストフの夫婦の部屋に飾る花を温室からもらってきたアイリスから訊ねられて、わたしは即答した。今日のお昼はふわふわオムレツ。いかんいかん、よだれが。


「つーかお前、今日、城に行くとか言ってなかったか?」


 黄金色のオムレツを想像してにやにやしているわたしに、クイールがあきれたように言う。


 そう、今日は宮廷魔術団の様子を見に城に行く予定だ。光属性のイタンに、光の初期魔法を見せる予定である。

 アシルが送ってくれた魔力満タンのシトリンは、奥の手として温存しておくつもりなので、その魔力は無駄遣いしない。光魔法の消費魔力が多いとはいえ、光の初期魔法の光玉くらいならわたしの魔力でも打てるから、今日はそれだけ説明してくることにしている。


「お昼を食べてから行く」


 だってオムレツだから。


「いいのかそれで」

「何時に行くとか言ってないから大丈夫」


 座学とか、魔力操作の基礎なら属性に関係なくサーリアで事足りる。わたしはあくまで、サーリアが苦手とする(わたしも得意じゃないけどサーリアよりまし)光魔法を担当するだけだ。イタンが光の基礎魔法を覚えたら、お役御免の役どころである。


「お前食い意地張ってるよな」

「あんたにだけは言われたくないわ」


 グルメと称して城の食糧庫を荒らしまくってたやつが、何を偉そうに。

 クイールはのそりと起き上がると、階段の上で体のぐーっと伸ばして大きく欠伸をする。こういう姿を見ると、本当にただの猫だ。


「まあ、昼から城に行くならちょうどいい。その宮廷魔術団だっけ? そいつらに、早いとこ簡単な攻撃魔法と防御魔法を教えとけ」

「言われなくてもわかってるけど、あんたが言うと何か裏があるように聞こえるわ」

「別に裏ってほどじゃねえ。ただ俺様は雑魚の相手をしたくないだけだ」

「は?」

「そのうちわかる」


 そう言って、クイールは軽快な足取りで階段を上っていく。昼食の時間まで昼寝をするらしい。


 本来、魔女や魔法使いが弟子を取る際は、ゆっくり時間をかけて魔法を教えていく。

 しかし宮廷魔術団の訓練を、わたしが師匠にしてもらったようにのんびりと訓練していたら、魔法の習得まで何年かかるかわかったものじゃない。


 魔人が近くにいる現在、ことは急を要する。

 クイールは大半の魔力を失っていて魔力だまりを作るほどではないが、本来魔人の周囲には「負」の魔力だまりが生まれる。そして、「負」の魔力だまりは魔物を生む。魔人の討伐は無理でも、宮廷魔術団には最低限、低級の魔物の討伐くらいはできるようになってもらわなくてはならないのだ。


 ……魔物が増える前に、北にいるらしい魔人を討伐に行きたいんだけど、まだエメラルドの魔力はたまってないし。


 アシルがシトリンをくれたが、相手は魔人だ。のんびりはできないが、できる限り万全の状態で向かいたい。


 階段の段差に座って、はーっと息を吐いたわたしの目の前で、クイールが生み出した一羽の小鳥が、ばさばさと玄関の扉をすり抜けて飛び立っていった。


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