宮廷魔術団 4
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エメラルドの魔力温存のため、サーリアに樹海にあるわたしの家まで運んでもらい、わたしは数冊の魔法書を持ってラファイエット公爵家に戻った。
クリストフが仕事で留守にしている日中、独り立ちしてからしばらく開いていなかった魔法書を開く。
サーリアはさっそく城にお引越しして、今日は宮廷魔術団に、魔法とは何たるかという座学を教えているはずだ。
「光属性の魔法なんて調べてどうするんだ?」
暇なのか、クイールはわたしが座っているソファの隣にやってきて、魔法書を覗き込んだ。
「宮廷魔術団に光属性の人がいるのよ」
「そりゃあまたレアな魔力を持ったやつが来たもんだ」
「あんたには言われたくないわね」
「俺様はレア中のレアだからな。一緒にすんな」
光属性以上に少ないのが闇属性なので、まあ、レアなのは認めるが、自信満々で言われると腹が立つのは何故だろう。
「光属性は基本魔法でも威力が大きいのよね」
「光玉でも教えときゃいいだろ。夜に便利だしな」
「ランタン代わりじゃないのよ?」
適当なことを言うクイールにわたしはため息だ。
クイールの言う光玉――単元魔法の「光」ならすぐに教えられる。
だが攻撃魔法や防御魔法などになってくると、基礎でもかなり魔力を消費するから、魔力の少ない今のわたしには見本を見せるのもかなり大変だ。
炸裂魔法《光》だけでも稲妻が発生する。炸裂魔法応用《光・迅雷》なんて使った暁には王都を吹っ飛ばすくらいの威力があるだろう。まあ、光魔法の応用なんて、魔力消費が激しすぎてそうそう使えるものでもないが。
斬撃魔法《光》ならまだましか。
穿通魔法《光》の光の矢も、魔力消費はえぐいけど、的を絞れば周囲への被害は少ない。
……どちらにしても、もう少しエメラルドの魔力をためないことには厳しい。
「あんた光魔法使える?」
さすがに魔人に教鞭をとらせることはできないが、なんとなく興味で訊いてみた。すると、クイールはふふんと鼻を鳴らす。
「当り前だ。俺に使えない属性魔法はない」
さすが自分を大魔人様だと豪語するだけはある。
「だいたい、魔力消費を気にするなら、弱化させればいいだけだろ」
「……弱化?」
はじめて聞いた。不思議そうに首をひねると、クイールがぴょんとソファから飛び降りる。
「防御結界張れ。風でいい。得意だろ」
「ちょ、ここで打つ気?」
「早くしろ、出ないと貫通するぞ」
本気だ。わたしは慌てて自分の周りに風の防御結界を張る。
クイールが目を細めて、わたしに向かって魔法を展開した。
「穿通魔法弱化《光》」
「ちょっと待――」
わたしが制止するより前に、わたしめがけて無数の光の矢が飛んでくる。しかし、わたしの風の結界に阻まれてあっさり霧散した。
「こうやるんだ」
クイールは得意げに笑うが、それどころではない。
「あんたなんで人の魔法が使えるの⁉」
魔人は、人とは違う断りで魔法を使う。そもそも魔力の種類が「正」と「負」で真逆だから、魔人が人の魔法を使えるのはおかしいのだ。
唖然とするわたしに、クイールはこともなげに「俺様クラスになればこのくらいは造作もない」とか言い出した。
いや、それおかしいから!
絶対おかしいから!
「あんたいったいなんなの⁉」
クイールはわたしの隣の戻ってくると、わたしのために用意されていたクッキーを一枚とって食べはじめた。
「何ってなんだ?」
「だから、あり得ないって言ってんの! どうやったらそうなるわけ⁉」
「どうもこうも、『負』の魔力を『正』の魔力に変換しただけだ。効率が悪いことこの上ないから、普段は使わない」
「ちょっと意味が解らないわ」
魔力の本質を変換とか、できるはずがない。
しかしクイールはむしゃむしゃとクッキーを食べながら、興味なさそうに言う。
「理解しようとしなくていい。つーか、世の中には知らない方がいいことってのがあるんだ。あんまり深く考えんな。俺様だからできる。それでいーじゃねーか」
「なにそれ」
ものすごく意味が解らないが、クイールはこれ以上説明する気がないらしい。
何かもやもやするけど、教えてくれそうもないから諦めるしかない。
そんなことよりも今はクイールが教えてくれた弱化魔法の習得が先だろう。これができれば、レバルに光魔法の基礎を教えるのが楽になる。
部屋の中で魔法を打つのは危なすぎるので、わたしはぱたんと魔法書を閉じると、庭に下りることにした。
今日はそう言う気分なのか、クイールもわたしについてくる。
ついでだからクイールに邸や庭に被害が及ばないように結界を張ってもらった。
「じゃあ行きますか」
とりあえず弱化魔法習得のために、得意な火魔法と風魔法で試すことにする。
「炸裂魔法弱化《炎》‼」
わたしの声に合わせて、ドーンと爆発音が響き渡った。