宮廷魔術団 3
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最悪クイールを使って脅してやろうと考えていたのに、サーリアは驚くほどあっさりとわたしの提案を飲んだ。
クリストフが、宮廷魔術団の創設を手伝う代わりに城に一室用意すると言ったのがよかったようだ。クイールに食われそうになったことがトラウマのサーリアは、クイールから距離を取りたくて仕方がなかったから、城での生活は願ったりな提案だったらしい。
クリストフの提案から三日後、わたしとサーリアはクリストフとともに王城を訪れた。
宮廷魔術団の入団希望者が集まったらしい。
国が興って以来初の試みとなる「宮廷魔術団」には国王陛下も興味津々の様子で、入団希望者が集う騎士団の演習場には、すでに国王と王太子である第一王子の姿があった。
宮廷魔術団はクリストフの提案をもとに立ち上げることになったので、責任者はクリストフだが、国を守るための試みなので、国王も次代の王である王太子も多分に関わる気満々である。
……しっかしまあ、よくこんなに希望者がいたものね。
演習場には、ざっと見ただけで百人を超える人が集まっていた。
クリストフによると、宮廷魔術団の最初の人選なので、一般公募はせず、城ですでに働いている人に声をかけたらしいが、武官、文官、その他使用人を問わず、広く声をかけたためか、かなりの希望者が出たらしい。
もちろん、ここから素質のあるなしでふるいにかけていくため、百人以上いても、十人も残らないと思うけれど。
「サーリア、二つに分ける?」
「そうね」
これだけ人数がいるのだ、一人ずつ見ていくと時間がかかる。わたしとサーリアは、希望者を二組に分けてそれぞれ素質を確認することにした。
国王に頼んで希望者を分けてもらうって、わたしはクリストフとともに左側の組を見ることにする。
一列になってもらって、順番にわたしの前に立ってもらった。
……というか、みんなすっごいムキムキだね。なんでだろう。騎士や兵士たちからの希望者が多かったのかな。
そんなことを考えながら、右の組を見ているサーリアに視線を向けると、あちらはなぜかひょろっとした文官タイプの人や女性が多い。
……なぜだ。
どうしてわたしの組はマッチョだらけなんだろう。
あれか? わたしにはクリストフがくっついているからか? クリストフって確か、第二騎士団の騎士団長もしていたよね? ほかにも仕事がたくさんあるみたいだから、おそらく名前だけの在籍なんだろうけど。だからか?
「はい次の人ー」
目の前に立つ人の魔力を確認していくんだけど、どうしてもムキムキの上腕二頭筋とか、ぴくぴく動いている胸筋とかに目が行ってしまう。
っていうかあの胸筋どうなってんのかなー。なんでぴくぴく動くんだろ。……ちょっと触ってみたいんですけど。
わたしがじーっと筋肉を見つめていると、クリストフがわたしの側にしゃがみこんで、ぷにっとほっぺたをつついてきた。
「オデットは何を熱心に見つめているのかな?」
振り向くと、にこりと笑っているクリストフの笑顔が、なんか怖い。
……え? 何か怒ってる?
筋肉って見つめちゃだめだった?
でもでも、あのぴくぴく気にならない?
クリストフはわたしの頬を意味もなくつつきながら、怖い笑顔のまま言う。
「浮気心を起したら、一週間おやつ抜きだよ」
浮気!?
なにそれどういうこと!?
筋肉見つめたら浮気になるの!?
おやつ抜きは嫌なので、わたしは必死に筋肉から注意を逸らそうとするけれど、やっぱりぴくぴく動くと気になるんです!
サーリア、場所変わってよ! わたしのおやつが危機だよ! つーか筋肉ぴくぴくさせんな! 気になるだろう!
うーうーと唸りながら、わたしは必死に筋肉から視線を逸らして、一人ずつ素質を確認していく。
二時間かけて終わったときには、別の意味でどっと疲れがたまってしまって、クリストフに抱き上げられてぐでんとしていた。
わたしより十五分遅れて、サーリアの方も確認が終わる。
わたしの方でマッチョが三人、サーリアの方で四人ほど素質ありの人が確認できた。予想していたより多い方だ。
選ばれなかった人たちはしょんぼりしながら演習場を出て行く。
わたしに選ばれたマッチョ三人はよほど嬉しいのか、無駄に太い上腕二頭筋を互いにばしばし叩き合いながら喜んでいた。
「……クリストフ、あの三人、誰?」
「金髪がギャビン、こげ茶の髪がジェレミー、緑色の髪がエバンスだね。ギャビンとエバンスは第四騎士団、ジェレミーが第二騎士団だ」
「じゃあジェレミーはクリストフの部下?」
「そうだけど、魔術団の入団が決まった時点で、騎士団からは除籍されるから、もう部下じゃないよ」
「ふうん」
騎士団なら、剣とか得意だろうから、魔法と剣技を合わせたりしたらよさそうだね。まあ、そのあたりはサーリアが好きに鍛えるでしょ。
サーリアの方で選ばれた四人は、ひょろっとした文官タイプの男性が二人、そして女性が二人だ。
文官タイプの一人がイタンでオレンジ色の髪。もう一人がレバルで金髪。
女性の一人がチェルシーで銀髪。もう一人がパトリシアで赤い髪、この二人は元メイド。
よし、覚えた。
「オデット、属性見てくれる?」
魔力の属性を見るのが苦手なサーリアがわたしに仕事を振ってくる。
魔法は、自分の属性の魔法ほど覚えやすい。だから、最初は自分の魔力の属性の基本魔法が使えるようになることからはじめるのがいいのだ。
わたしは近くにいたギャビンから魔力を確認することにした。
「ええっと、ギャビンは土、ジェレミーは水、エバンスは風、イタンは火、チェルシーは風、パトリシアは火。それから……レバルは光」
光とは、また珍しい魔力属性の保有者が現れたものだ。
属性は水、火、土、風、光、闇の六種類が存在する。その中でも光と闇は保有者がかなり少ない。これは人も魔物も魔人も同じだ。
光属性は扱いが難しいから、サーリアの手には余るかもしれない。
かく言うわたしも、得意ってわけじゃないんだけど……。
「サーリア、レバルは最初の基礎だけわたしが見るわ」
サーリアに全部丸投げするつもりだったけど、これは致し方ない。
「それがいいわね」
サーリアも自分をわかっているので、わたしの提案にあっさり頷いた。
国王と王太子は、無事に宮廷魔術団の初期メンバーが決まったことに満足して、あとはわたしたちに押し付けてさっさと城に戻っていく。
宮廷魔術団はこうして、責任者クリストフ、実働責任者サーリア、たまにわたし、そして団員七名で設立された。




