七歳になりました 1
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……サーリアめ、覚えていろよ。
次に会ったらただじゃおかん。
大聖堂で気を失ったわたしは、目を覚ましたベッドの上で、自分自身に何が起きたか悟った直後、怨嗟の言葉を吐きまくっていた。
「あの貧乳魔女。陰険。性悪。くそったれ!」
しかし語彙力の少ないわたしは、その言葉を無限ループするだけで、ここぞという罵り文句が浮かんでこない。
そんなわたしを、ものすごく戸惑った顔で見つめているのが、本日わたしの夫となったクリストフである。
「ええっと、オデット……だよね」
「決まってるでしょ。というか目の前で縮んでいくのを見たあんたが一番わかっているんじゃないの?」
「そ、そうだよね……」
クリストフの戸惑いもよそに、ベッドの上にちょこんと座っている七歳の子供――サーリアのくそったれな魔法で子供になったわたしは、ぎりぎりと歯ぎしりだ。
「幼児化する魔法とかふざけた魔法を開発しやがってサーリアめええええええ!!」
「ええっと、オデット。もうそのくらいで……ほら、見た目的にね、こう、心臓に悪いというかね」
七歳の子供が鬼の形相でギリギリ歯ぎしりする様にクリストフが若干引き気味だ。
しかしわたしの怒りは収まらない。
なぜなら、わたしのこの姿を見て、部屋の隅でケタケタ笑い転げている「黒猫」がいるからだ。
「ひーひー! マジかよ幼児化とかすげー! お前のトモダチめっちゃウケるー! 結婚式に子供に戻るとかこれ以上ない嫌がらせだろ! ひーっ、腹いてぇ!!」
「そのまま笑い死ねくそ魔人!!」
わたしは枕をひっつかむと、黒猫に向かって力いっぱい投げつけた。
この黒猫はなんと、国王陛下が依頼して来た三百年前に大魔法使いに封印された魔人である。
わたしとの激闘(自分で言うとちょっと照れる)の末、力を失った魔人は、こうして黒猫に擬態して、なぜかわたしの周りをちょろちょろするようになった。
大魔法使いは本当に大魔法使いだったようで、この魔人、無駄に強くて頑丈で、わたしでは完全に討伐できなかったのだ。
「今ならお前食って元の姿に戻れるかもなー。でもおもしれーから、食わずにいてやるよ。俺ってやっさしぃー」
「うるさいうるさいうるさーい!」
「ええっと、オデット、落ち着こう。ね?」
クリストフがわたしをなだめようとするが、これが落ち着いていられるだろうか。
……幼児化したせいで魔力も激減よ。どうするのよこれー! 自分で元に戻るのとか絶対に無理じゃないのー!
そう。子供に戻ったのは何も姿かたちだけではなかった。魔力もなのだ。幸い記憶はそのままなので、魔法の使い方は覚えている。だが、魔力がたりないせいで大きな魔法が使えない。これではたとえ幼児化を元に戻す魔法を思いついたとしても使えない。……思いつきもしないけど。
「サーリアめサーリアめサーリアめ!! あの貧乳、ぺちゃぱい! まな板!」
「貧乳もぺちゃぱいもまな板も全部同じ意味だろ」
「うるさい魔人!」
「魔人じゃなくてクイールだっつーの。俺お前を魔女って呼ぶぞ」
「わたしは呼び方なんて気にしないわよくそ魔人」
「オデット、落ち着いて、ね?」
怒りの矛先をぶつける場所がないのでクイールに八つ当たりするわたしの頭を、クリストフがよしよしと撫でる。
「いい子だから、ね? ほら、お菓子があるよ?」
完全に子供扱いだ。
クリストフはわたしの目の前にクッキーを差し出したが、わたしがクッキーごときでつられると……。
「はいあーん」
「あーん!!」
……。
反射的に口を開けたのはあれだ、きっと幼児化したせいで心も幼児に戻っているのだ。そうに違いない。でなければこの怒りがクッキーで収まるはずが……。
「はいもう一枚。あーん」
「あーん!!」
くぅ、クッキー、美味しい!!
いい子いい子と頭を撫でられてクッキーを口に運ばれるこの屈辱! でも美味しい! 止められない!
「お前、じつはちょろい女だろ」
ちょろいとか言うな魔人!!
「次はチョコレート食べる?」
「食べるー!」
ああ、つい返事をしてしまうわたし、どんなもんよ。
そりゃあ、お菓子なんて高級品もうずーっと食べてなかったけどさ。
食べたいけどさ。
美味しいけどさ!
クリストフにチョコレートを口に運んでもらいながら、泣きたくなってきたわたしに、新婚の夫はにこりと極上の笑顔で言った。
「オデットが子供になったのは想定外だったけど、僕は君が大人になるまで気長に待つからねー」
……前から思っていたんだが、この王子、ちょっと天然すぎやしないだろうか。
 




