里帰り 2
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「西に行ってこようと思うの」
クイールが回復して歩き回れるようになって二日。
朝食を食べながらわたしがそう言えば、クリストフが目を丸くした。
「西ってどうして?」
「西のタバタって町に、サーリアが住んでいるのよ。ちょっと会いに行ってくるわ」
もっとも、サーリアと会ったのは、あいつがわたしを幼児化させたこの前を除けば、わたしが樹海に引きこもる以前のことだ。引っ越している可能性もあるが、タバタには師匠の孤児院がある。サーリアのことだから、引っ越していてもタバタからそう離れていないだろう。
……あいつ、わたしを目の敵にしてるけど、ほかの兄弟たちのことは気にかけていたからね。
深き森の魔女の二つ名をわたしが受け継いでから何かと突っかかってくるようになったので、仕方なくわたしは樹海に引っ越したけど、それがなかったらわたしも孤児院のそばに住処を構えただろう。
わたしやサーリアにとって、孤児院の兄弟たちは本当の家族と同じなのだ。孤児院自体はエレンに任せているけれど、何かあればすぐに飛んでいくのは、わたしもサーリアも同じ。
「サーリアって君をその姿にした魔女でしょう? 元に戻してもらいに行くの?」
「違うわよ。まあ、戻せるなら戻してほしいところだけど、たぶん無理だと思うわ」
姿を子供に変えたり大人に変えたりできるような都合のいい魔法など存在しないだろう。わたしを子供の姿に変えたサーリアが開発した魔法だって、そうそう使えるようなものでもないはずだ。何らかの発動条件があるはずである。
……結婚式の日にわたしの足元で光った魔法陣は、あきらかに事前に仕込まれていた。だけど、条件はあれだけじゃないはず。
魔法詠唱でサーリアは「時間回帰」と唱えた。時間回帰なんて魔法は知らないが、サーリアはそれだけしか唱えなかった。ただの火や水を生み出す単元魔法ならいざ知らず、何らかの効果を付与させる魔法は魔法名のあとに属性や状態を、応用魔法ならそのあとに応用させる形を唱える。でも、サーリアは唱えなかった。
わたしを七歳児にした魔法が、単元魔法なはずはない。無属性の魔法というものも存在しない。原理はわからないがあの魔法はいろいろおかしい。
サーリアがそんな普通ではない魔法を奇跡的に生み出せたのはわたしの状態から考えて間違いないが、さすがにそれを元に戻す方法など知らないだろう。
そもそもサーリア、あんまり頭よくないし。この魔法もたまたまうまくいっただけで、きっと原理なんて考えてないわ、きっと。
そう言うことだから、わたしはサーリアに元に戻してもらえるとは思っていない。
サーリアに会いに行くのはもっと別の理由だ。
「今のわたしじゃ、魔人が襲ってきても対処しきれないもの。だからこの上なく不本意だけど、サーリアに協力させようと思って。もとはと言えば、あいつがわたしをこの姿にしたのが悪いんだから、責任くらい取らせるべきでしょ」
「なるほど、そういうこと」
「タバタまでの距離なら、今これにたまっている魔力で飛んでいけるから、時間もかからないし」
そう言って、わたしは首の銀色のチェーンを引っ張った。魔力をためることのできるエメラルドは、クリストフが贔屓の細工屋に頼んでネックレスにしてくれたのだ。
「そんなに心配そうな顔をしなくても、すぐに戻ってくるわ。クイールもまだ完全に回復してないし、のんびりしている間に王都に例の魔人が来たら大変だもの」
それに、クリストフにも仕事がある。新婚旅行のために長期休暇を取っていたのだ、これ以上わたしに付き合って休めない。
「わかった。気をつけて行ってくるんだよ?」
過保護なクリストフはまだ心配そうだったが、魔人に対抗できるのは魔女や魔法使いだけだと知っているので、渋々ながらに許可してくれた。




