願いを叶えます
どこからお話しましょうか。
そうそう、先にわたしのことを説明しないといけませんね。
わたしは妖精です。
最近はそう名乗るようにしているのです。そのほうが印象がいいようなので。
仙人とも悪魔とも呼ばれた事がありますが、別に魂をとって喰うなんてことはしません。
誤解です。
「ある特定の人」の願いごとを叶えるだけの存在なのです。願いが成就する瞬間の「喜び」を糧にしているのです。
願いを叶える人を選ぶことはできません。
ときおり光って見える人がいて、その人の願いを叶える。
そうしなければ、消滅する。
そういうことになっているのです。
願いを叶えられず、消えた仲間もいました。
消えたくなければ、光る人を見つけて願いを叶えなければならないのです。
願いはいろいろありました。
美味しいソーセージが食べたい、金貨が欲しい、美女になりたい……、王になりたいというのもありました。
願いを100回叶える権利が欲しい、というのもありましたが、こういうことはできません。
願いはひとつだけ。実体があるものに限ります。
ある時、政という男が光って見えました。
努力家で実力があり、望むままの権力を手に入れた男でした。
だから金貨も美女も、地位も望みません。
その男の願いは「不老不死の身体」でした。
実のところ、薦めたくはない願い事でした。
周囲の家族、友人知人が老いて死んでいくのを見送る。これを果てしなく繰り返すということです。
それは想像を絶する孤独なのでは、と思ったのです。
願い事を叶えて、不幸になって欲しくはありません。
妖精だって、後味の悪い事はイヤです。
それを伝えたのですが、自分はこれ以上失うものはないからと強く願ったのです。
部下に不老不死の薬を探させていたけれど、裏切られたり、逃げられたりで、信じられるものは誰もいなくなり、体調は日々悪くなる。全てに絶望しているからとのことでした。
願いを叶えないとわたしが消えてしまいます。それしか願いがないというのでは、しょうがありません。
願いを叶えて、不老不死の身体にしました。
それはもう、ほれぼれするくらい完璧な不老不死です。
身体が老化して使えなくなると、若返って復活する。これを果てしなく繰り返すのです。
これ以上の不老不死はありませんよね?
結果としてわたしは消えませんでしたから、彼も喜んだのだと思います。
確かめられないので、想像するしかないのですが。
彼が今どこで暮らしているかですって?
海の中です。
今ではその「不老不死」ぶりは有名なようです。さっきネットで確認しました。
ベニクラゲというクラゲだそうです。
不老不死は人間の身体では大きすぎて実現不可能なので、可能な生き物、クラゲに身体の一部を変化させ精神を移したのです。
元気なようでほっとしましたよ。
不老不死の身体でも、環境が悪くて滅んでしまうことがありますからね。
記憶も意識もなさそうですが、孤独でもなさそうで、本当によかった。
天下統一の願いを自力で叶え、さらに「不老不死の身体」という究極の願いも叶えた男。
歴史上、これ以上幸せな人はいないのではないでしょうか。
わたしも妖精として、いい仕事ができました。
あなたもご存知でしょう。
諱は政。姓は嬴。秦の始皇帝のことです。
こういう願いもあったということで、話は終わりです。
さて、わたしには、あなたが光って見えます。
つまり、あなたの願いを、叶えなくてはならないのです。
さあ、何を願いますか?
たいがいのことは、叶えられますよ?
一本前の「贈り物」と同じ妖精のお話です。
願い事を叶えてくれるのはいいのですが、お互いキッチリしたすり合わせは必要だとしみじみ思います。
砂をまき散らしながら似たようなことを言い、似たようなことをする怪人もいましたが、あっちはやっつけてくれるヒーローがいますしね。
というわけで、あなたの願いはなんですか?
わたしの願いは一冊ぐらい書店に自分の本を並べたい。なんて書くと、私所有の本(私が書いたではなく)が古本屋に置かれていそう、っていうかそんなのすでにブックオフさんが叶えてくれてます。




