たよりないカプセル
キャハハハハ、と女は笑った。
「ほんとにやったの? 勇気あるね」
「マジで恥ずかしかったんですから。先生に病んでるのかって言われちゃいましたよ」
ごめんごめん、と肩を叩かれ少しドキリとする。
「情報を光よりも早い速度で送ると過去に戻ることができるの。つまり、私がこれからやることは、君の脳内の情報すべてをこのカプセルにいれちゃうの」
コンコン、と叩かれたそれは、錠剤のように小さくて頼りない。
「えっと、仮に送れたとして、今の僕の体はどうなるんですか? あと送り先の僕の記憶とかは?」
「君は2、3日寝てるだけ。こっちでの1日が過去では1年って具合だよ。記憶は17年間生きてきた今の君のままで、送り先は抜け殻と思ってもらって大丈夫かな」
「なるほど。でも戻るときは?」
「今日を超えなければいつ戻ってもいいのよ。戻るときは、眠る前にこのカプセルを飲んでね」
「今日を超えたら?」
「君が2人いることになってしまうね。実際に目にしたことはないけど、どちらかは事故とかで死ぬんじゃないかしら」
「急に雑!」
「まあ、中学校なんて同じことの繰り返しだから、1年もいれば十分と思うはずよ。わかったら今夜そのカプセルを飲んでね。帰り用のものも忘れずに」
「あの、えっと、あなたとはもう会えないんですか?」
「そうなるわね。私は山口紗希。君の名前は?」
「晋太郎。工藤晋太郎です」
僕の会計を済ませ、山口さんは帰っていった。