何ら変わりがない
「3年生は今日で終わり。明日はとりあえず休みにするから」
いつもは厳しい顧問の声が震えている。泣くのを我慢している様子を見て、また涙が止まらなくなる。
修一の付けていた12番をベンチに飾り、最後の大会に挑んだ。走り負けることは一度もなかったけれど、3回戦で当たった強豪のチームに技量で負けてしまった。
赤星さんの弟が泣いている。来年は自分たちの代なのだから、もう少し嬉しそうにしてもいいのにな、と晋太郎は思う。
女子の試合を見届けたあと、母親に写真をせがまれる。もっと笑いなよ、とか、なんか囚人みたい、などと散々な言われようだった。だから写真は嫌いなのだ。
「気をつけ、ありがとうございました」
部長の挨拶で解散する。重たいバックを親に預け、近くのバス停までのそのそと歩く。
春人とはあれ以来、タイムスリップの話をしていない。おそらく自分はこのまま2020年に帰るのだと思う。
臭いバッシュを放り出し、晋太郎は布団に入る。カプセルをケースから取り出し、ゆっくりとそれを飲み込む。心地よく鳴く虫の音に耳を澄ませながら、眠りに落ちた。
起きるとスマホのアラームがうるさかった。タブレット端末ではない。やはり2020年に戻ったのだ。晋太郎はバッシュがないことを確認し、高校の制服に着替えた。
今のところ何も変化はない。LINEを確認しても、白崎さんからは何も来ていないし、タイムスリップする前と何ら変わりがない。朝食を済ませ、晋太郎は日常に戻っていく。




