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まるで新商品を試したかのように
「何か暗くない?」
春人が椅子を斜めにして話しかけてくる。
「そう? そんなことないんだけど」
「白崎さんと何かあった?」
自分から、ギク、という擬音が聞こえてきそうだ。
「ちょっと喧嘩しちゃって」
とっさに嘘をつくと、春人は相談に乗るふりをして、のろけ話を繰り出してきた。どうやら赤星さんと随分うまく行っているらしい。
「うざいうざい。もういいですー」
浮かれている幸せ者を無理やり剥がし、体育館に向かう。
春人の幸せを守りたい。アイツに修一のことを知られたくない。醜い肉塊と化した友人の気持ちの悪い笑い顔が頭をよぎる。あんなものを生かしておけない。
中にいるだけで汗を吹き出てくる空間に修一はいた。黒いバッシュに紐を通している。
「しん、たろー」
晋太郎は赤いバッシュを取り出す。鼻血を垂らしたことがあったけど、その時のシミがどこにあるかわからないくらいきれいな赤だ。
「お前さ、赤星さんに手出した?」
「あぁ、あの剛毛? 臭いし、笑うと目がなくなるから微妙だったな」
まるで新商品を試したかのように修一は話す。
足元を見ると黒いシューズが赤黒く染まっていた。