キモっ、と引かない女
目の前の綺麗な女が「タイムスリップ」と口にした。晋太郎は地球平面説くらい信じられない出来事のように感じた。
晋太郎は怖くなり、受け取った水筒をカバンにしまい、クロスバイクに跨がろうとする。
「おい! 逃げるな!」
と背負ったかばんを掴まれる。思いの外力が強くて、ドスン、と晋太郎は尻もちをつく。結構痛い。
「ごめん、大丈夫??」
「あ、平気っす」
急に女が目を合わせて来たので、言葉の最初に「あ」をつけてしまう悪い癖が思わず出てしまう。
「タイムスリップさせるためには、叫べばいいの」
わァァァァって、と女が大声を出したので、横を通りかかったランナーに奇怪な目で見られる。
晋太郎はわけがわからなくなった。いい匂い、お天気キャスターみたいな女、コケたら心配してくれる、水筒での間接キス、17年間一度も起きたことのないイベントづくしで、脳の処理が追いつかない。きっと晋太郎がスマートフォンなら、シャットダウンしてしまうだろう。
「わけわかんないのでファミレスいきません?」
女は「どうして?」と言った。
「あ、暑いし。パフェ食べたいからです」
「ふーん」
何かを察したような顔をして、女がスマホでファミレスを検索する。「デニーズ」が、歩いて5分のところにあるらしい。
「じゃ、チョコパフェ奢りってことで」
「はい」
晋太郎は、これって俺がデートに誘ったみたいじゃないか、と恥ずかしくなり前髪を触った。




