イジリたくてしかたのない顔
地元の駅では、制服を着た人全員が知り合いに見える。晋太郎は誰にも見つからないように、と願いながら改札の前で白崎さんを待つ。
「工藤くん」
「うぃー」
軽めの挨拶の正解がわからないから、変な声を出すことで誤魔化す。
「ガスト行く?」
「どこでもいいよ」
教科書をいっぱいに詰め込んでいるから、可愛らしいリュックがパンパンだ。
持とうか、というのもなんだか子供扱いしているように思えて、晋太郎は何も言わないことにする。
「しん、たろー」
前に修一がいる事には気がついていた。
「お、おう」
「え? 付き合ってんの?」
修一はイジリたくてしかたのない顔をしている。
「うん、実はさ、言ってなかったんだけど」
「春人は知ってんの?」
「知ってる」
「何だよー、仲間はずれにしないでよ」
わりぃこれから"デート"だから、となれない言葉を放つと、「お幸せに」と解放してくれた。
「付き合ってることって言ったほうがいいのかな?」
「んー、私はゆりにしか言ってない」
ふーん、と自分と感覚が近い白崎さんに安心する。
「俺も聞かれたときしかいわないようにする」
うん、と白崎さんとの距離が近くなる。今までに味わったことのない幸福が晋太郎の口角を引っ張り上げる。