表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある会話

作者: 凡愚

「俺さ、思うんだよ。あの日、その時の俺にはきっと今とはまた別の大切な人が、家族がいたんだろうなって。」


彼は唐突にそういった。


「いや、もちろん今に不満があるわけじゃない。マジだぜ?『僕には結局ホントの家族はもういないんだ』、とかそんなことを言いたいわけじゃないんだ。」


地面へと向けられた視線は口をはさむことも、表情をうかがわせることさえも許さない。


「今まで誰にも言ったことなかったんだけどな、俺、助けられたとき、無傷だったらしいんだよ。焼けた街のど真ん中でな。」


想像できるか、と彼はつづけた。私が始めたはずの問答だったはずなのに、声が出ない。胸の奥の何かが『それ』を声に出すことを拒んでいるかのようだった。音にしてしまえば事実になってしまうような気がして。

しかし結論から言えばそんな抵抗は全くの無意味だったのだろう。彼は私の想像をそのまま、ささやくように口にした。


「誰かが助けてくれたんだよ。身を挺して。」


それは本来ならば尊ばれることなのだろう。感謝すべき事柄なのだろう。しかし、その事実は彼にはもっとも残酷な結論をもたらした。言葉が少しずつ熱を帯びていく。


「顔も知らない。どこの誰かもわからない。でもきっと俺のことを自分よりも大事にしてくれた『誰か』。そんな誰かのことさえ思い出せないんだ。」


彼はつづける。


「あの日、たくさんの人が亡くなった。『誰か』も死んだ。なのに俺は生きてる。ちがう、あの日『誰か』助けたいと思った『俺』も死んだ。だからだ。命を救われたのに、だれに救われたのかも、どうして助けられたのかも思い出せない俺がどうしてのうのうと生きられる?」


だから自分の命の価値を証明しなければならないのだ、と、せめて助ける価値のある己でありたいのだ、と彼はそう言った。



___________________to be continued

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ