パーティーの主役はだあれ?
「本日の主役、ネイヴィス·オスカネア第一王女がおいでになられました」
私は主役にふさわしい微笑みを称え、一歩ずつ足を踏み入れた。エスコートは、いない。これがどれ程屈辱なのかわからないだろう。……私も正直わからん。
本来誕生日パーティーの主役は、王女であれば王にエスコート
されるか、兄や弟にエスコートされるものなのだ。
ルネットなら喜んでエスコートしてくれただろうが、彼は残念なことに王太子である。王太子にエスコートされていいのは、婚約者だけなのだ。
さっきも言ったように、今日のパーティーの主役は一応私だが、メインイベントは第二王女の紹介。だから、今日のエスコートは前々から王がする予定だったが、急遽彼は第二王女のエスコートをすることになったのだ。
彼女がこの国の王女になったのだと周りに知らしめるために。はいかイエスしか言わない第一王女の事など、誰も気にしていないのだ。
まぁ、結構クソな奴等だよね。
ちょ、言い訳させて。
あのね、だって、ヒロインご都合主義で悪役は所詮引き立て役だし、そのために悪役がいるんだから、こう言う悲しい状況あってこその悪役だと思うの。
だからネイヴィスになれるって言ったら笑顔で断るけど、なってしまったもんは仕方ない……。その状況ぶち破ればいいだけだし、悲観するより動いた方が性にあってる。
さぁ、主役なんだから一番に挨拶をしようじゃないか。これでも一応お嬢だったんだよ。
「本日は私、ネイヴィスのためにご足労頂き、ありがとうございます。是非、時間来るまで、心行くままお楽しみ下さいませ」
この国の王女として、ネイヴィスとしての挨拶だ。たとえ私が引き立て役でも、必要とされていなくても、私は微笑んでいなければいけない。
こらこら、そこの王子ども、私を睨むんじゃありません。あからさまかよ。貴族の皆さんも冷たい眼差し向けないで。
とりあえず主役の席に着くと、義務的に挨拶にきた人達に対応して、一通り終えると王が立ち上がる。まぁ、今第二王女がいないことを察すればわかっちゃうよね。うん。
顔が少しこわばるのを感じる。
「この場を借りて、我が皆に知らせたいことがある。知っているものもいるかもしれぬが、改めて紹介しよう。入りなさい」
王がそう合図をすると、あの扉が開いた。どぎまぎしながらも、第一王子にエスコートされた彼女はゆっくりと足を踏み出した。あーー、ヒロイン来たーー。
「み、皆様、オスカネア王国第二王女、カルメ·オスカネアです。よろしくお願いします」
うん、シナリオ通り。これからダンスが始まって、ヒロインとヒロインが攻略したい相手と踊るんだよね。これがルートの分岐点。誰だろ。
カルメがパーティーの輪の中に入ると、次々と周りの注目が彼女に向かっていく。お、第一王子と踊るのか。まぁ、彼メインヒーローだからね。私だったらあんな腹黒お断りだけど。作ったくせになに言ってんだとか言わないで。
私にも好みがある。
カルメが踊ることによって、ネイヴィスは主役の座をとられ、静かに激怒し、カルメを睨んでこの場を離れるのだが、私は料理でも楽しもうかな。ネイヴィスは友達いないし、取り巻きいないし。折角食べれるんだから。前とは違う。転生最高かもしれない。
料理をもりもり食べていたら、気持ち悪くなってきた。あぁ、いや、試したくなったんだよ。ネイヴィスも体弱いんだった。とりあえずこの皿を空にしてから椅子で休もうかな。
「ネイヴィス」
お、誰かに呼ばれた。この声は第三王子のユーリだな。なにしに来たんだろ。どうせ沢山の女の人をはべらせてんだろうな。
チャラ男だし。根は真面目って設定だけど。振り替えると、頭がくらっとした。気にしない。話すなって言われてるけど、ばれなきゃいいんだ。
「何でしょうか、ユーリお兄様」
「顔色悪いようだし、早く部屋に帰ったらどうだ?」
やっぱ女いたわー。馬鹿にするような目を向けないでもらえます?要するに「お前病弱だし帰っても誰も気にしないだろうから早く出てけよ」ってことだ。ネイヴィスになんてこというんだ。別に仲良くはないけども。
「いいえ、私はこのパーティーの主役であり、この国の第一王女です。自分の事情でお客様をおいてパーティーを出るなんて非常識な真似はしません」
当たり前じゃないか。どうせ私がこのパーティーを出たら周りから何か言われるんだろう。はぁ、これだから貴族のボンボンどもは。
おい、第三王子。びっくりした顔しないで。ネイヴィスがヒッキーだったのは私も知ってるけど、もしもネイヴィスがこんなこと言ったら私も驚きだけど。
「そ、そうか。あ、それなら、俺と踊らないか?」
はぁぁあ?嫌に決まってんじゃん。ネイヴィス正妃の娘だぞ。それに踊るのが第三王子とかめんど。仮にも夢美が考えた王子だぞ。いや、皆大好きだよ?!夢美は!!
けど、ネイヴィスになった夢美は、現実の貴方達はちょっと怖いのよ!!察してよ!
……無理なこと言うもんじゃないわ。諦めましょう。彼らはもうゲームのキャラクターじゃない。現実な人間よ。私がわかるのは設定とシナリオとその他秘密情報くらいで、シナリオが変わればこの先彼らが何するのかわかんないのよ。
……踊るか。
「仕方ないですわね。……えぇ、喜んで」
「さっき心の声漏れてなかったか?」
「さぁ、耳を検査していただいたらどうでしょうか?」
さらっと馬鹿にしてみる。ふっ、仕返しだよ。ユーリ。
「……か、考えておく。それじゃあ、ネイヴィス、お手をどうぞ」
私は取り繕った微笑みでユーリの手をとる。やっぱり有名イラストレーターが描いただけあって綺麗なんだよなぁ……。性格とか私が決めちゃってるから本当ごめん。この攻略対象たちみんな残念要素ぶっ混み過ぎたわ。
だって、そうしてくれって運営が……。いや、それを楽しんでる私もいたわ。そんなことを考えながらダンスのステップを踏む。結構ダンスは得意だったのよ。もう何年も踊ってなかったけど。ネイヴィスはダンス上手なのに、体が弱くて出来ないんだったわね。
ふふっ、一曲くらいなら楽勝じゃない。こんなの苦しさにたえられるかたえられないかの問題よ。えぇ、私はたえられるわ。伊達に28年病弱令嬢やってないし。
「ネイヴィス、お前ダンス得意だったのか」
ちょっと、ダンス踊ってるのに話しかけないで貰える?これでも結構大変なんだぞ。
「ユーリお兄様もお上手で」
そんな気持ちを胸に秘めながら笑顔で答える。ふっ、頬赤らめちゃって、そんなにネイヴィスが美しいか?大御所イラストレーターの力作だからな。当たり前だろうが。
周りから、感嘆の声や、ため息をつく人達の様子がうかがえた。もちろん、良い意味で。まぁ、これだけ絵になったら批判するの難しいよな。わかる。
無事に一曲終えると、ユーリと別れる。あれ、カルメ踊るのやめたの?拍手とか送らなくて良いから。ヒロインさーん、ネイヴィス悪役ですよー。敵に感嘆してどうする。
気休めにカシスオレンジのジュースを一口。あぁ、美味しい。さすが王族主催なだけあるな。
「姉様!」
と、更なる刺客がやって来た。まぁ、第八王子だけどね。
お読み頂きありがとうございました!