ワインレッドがお好き
あれからフランシスが侍女を呼んできて、今からドレス選びだ。……選ぶの当日?とか言わないで。どうせすぐ決まるから当日なだけ。だって、ネイヴィスだし。
「ネイヴィス様、ドレスはどうなさいますか?」
いつものように暗い色にするか。だって、元々私暗い色好みだし。毎日黒ずくめ生活だったからな。胸を張って言うことではないが。うーん、どうしよっかなぁ。私パーティーの主役だし、あまりにも暗いやつは駄目か。
ワインレッドで手を打とう。ワインレッドの中でも装飾品が沢山ついてなおかつ上品なやつがあるじゃないか。原作者でもドレスがしまってある場所こそ知っていても、そのドレスの事情までは知らないもので。
「このワインレッドのドレスにするわ」
「はい、かしこまりました」
それからはただされるがままになった。なんか、変な気分だ。いつもは私一人でやっていたから。パーティーだって、何だって。鏡に写っている私はネイヴィスで、何だか変な気持ちになる。いつか慣れるのかなー…。
「出来ました」
おおーー、やっぱり綺麗だな。うん、いいじゃん。主役っぽいよ。悪役っぽいんだけど、綺麗で、美しい。イラストレーターさん大御所だったもんな。さすが。悪役なだけで終わらせない。でも、正直悪役の癖に綺麗すぎる。
あーー、そういえばインタビューの時イラストレーターさん言ってたわ。「私、ネイヴィスちゃんが一番好きで!ちょっと、力入れちゃいました」ってだからキャラ投票で普通は悪役なんて上位に入らないはずなのに、ネイヴィスが3位だった。
まぁ、それ聞いたときお茶吹き出したよね。うん。結構その後むせてヤバかった。
あれ絶対寿命縮んだわ。
それにしてもこの髪どうなってるんだろう。なんか、文章だけじゃ伝えられないかもだけど、髪が真ん中になるにつれて短くなっていて、右端と左端が一番長いの。その両端を少し巻いてるのか?
髪飾りはスチルのようにレースがふんだんに使われたカチューシャで、長いリボンが垂れている。扇子は第八王子、ルネットからもらった黒とワインレッドのやつだ。すごい私好みで気に入った。
「それじゃあ、パーティーに行こうかしら」
「あ……ですがネイヴィス様」
あーーー、理解。パーティーに行く前に母親に挨拶しろとな。忘れてたわ。どうしよう。あの人ヤバイからなぁ。ヤバく創っちゃったのは私だけどさ…。
しかももうカルメ来てるから精神ぶっ壊れてるだろうし、私が生まれ変わる歳がもう少し早かったらまだ救いようがあったかもしれないのに。
……はぁ、でもあの人腐ってもネイヴィスの母親。つまり
私の母親だ。死んだら結構胸くそ悪いし彼女が自殺するエンドだけは迎えないように頑張ろう。
まぁ、彼女病気でベッドに伏せてるって設定だから、パーティーは来ないし、自由にしよ。
「ええ、分かったわ。フランシス」
「はい、ついて行きます」
母親の部屋の扉をノックする。
「ネイヴィスです」
母親は返事を基本的に返さないので、そのまま扉を開ける。中を見ると、さすが正妃の部屋!って感じがして、思わず見いってしまった。
「お母様、どうですか?今日は主役なので、少し背伸びしてワインレッドのドレスを着てみたのです。素敵でしょう」
私がさも母親を慕っているかのような言葉を重ねた。シナリオでもネイヴィスは母親のことが大好きって言う設定あったし、今はとりあえずこれで行こう。サービスで笑顔も見せてやるよ。
「えぇ、ネーヴィにとても良く似合っているわ。みんなネーヴィに釘付けよ……あの子がいなければ、もっと良かったのに」
微笑む母親。なんか不穏な空気になってるよ。こらこら、親指噛み締めるなよ。怖い怖い。あ、ネーヴィってのはネイヴィスの愛称。
「お母様!落ち着いて下さいませ。私、上手くやって見せますわ私を信じてください」
「そ、そうね。ネーヴィ、楽しんできて頂戴」
よし、早くこの部屋から出よう。不穏な空気に変わってしまう前に。私は早足で扉の前まで行き、「失礼しました」と言うと、足早に部屋を後にした。
「フランシス、パーティー会場までエスコートしてくれないかしら」
「仰せのままに、お嬢様」
手を重ねる時に、体がグラッとしたが、日常茶飯事なので特に気にしない。あー、慣れって怖いわぁ。だからフランシス、心配そうな目は向けなくていいんだよ。多分何度も見てるでしょ?ネイヴィスの時に。
考え事をしていたら、すぐに目的地に着いた。
会場の主催者専用つまり王族専用の扉の前に立つ。
「くれぐれもお体には気をつけて下さい」
彼は従者なので、残念ながら会場には行くことが出来ない。本当は隣国の非公式な王子様だしね。ネイヴィスが死んだら隣国に帰って、腹いせに王族皆殺して王様になるんだよな、この人。あぁこれ、ネイヴィスは知らないんだっけな。
何気にこの人すごいよね。なんで私攻略キャラにしなかったんだろ。そんなことどうでもいっか。
「ええ、行ってくるわね」
扉が開かれ、私は会場に一歩足を踏み出した。
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