観察
「っていう事があったんだけど、広印さん、声かけてあげた方がいいかな…?」
放課後、図書室で山田は田山に、今朝広印と会ったことを話した。広印はいじめられているのだろうか。それを助けるべきか…山田はどうしていいかわからなかった。
「うーん。そりゃ難しいな。下手にほじくるのもよくないだろうし。女子って難しいだろ?」
山田は女性経験は皆無だが、田山の言葉に大きく頷く。
「山田、お前はどうしたい?」
田山に相談すれば良い解決策を教えてもらえるだろうと思っていた山田は、まさか自分に振り返されると思っておらず、えっ、と聞き返した。
「えっ、じゃねぇよ。だって結局お前がどうしたいか、俺に話すことで気持ちを整理したいんだろ?」
田山が急に心理カウンセラーのように山田の胸の内を言い当てたので、山田は驚いたし、実際その通りだった。山田はもじもじしながら言い返す。
「俺は…もしちょっとでもいじめられてる可能性があるなら…助けてあげたいけど…助けてあげたいなんて大袈裟だね。話を聞くだけでも、全然違うと思うし…」
「さすが山田だ。今日もトイレの雑巾顔に押し当てられてたっていうのに、ちゃんと人のこと考える余裕あるんだな。」
「やめてよ。というか、なんで見てるの?」
田山はやっぱり俺のことが…
「別にお前が好きとかじゃないから。」
田山は早々に釘を刺した。山田はノンケだが妙にがっかりした。
「ま、じゃあ決定だな。いじめかわからないなら、本人に聞けばいいさ。」
そう言って田山は立ち上がる。
「え?どこいくの?」
「教室だよ。」
田山はまた、にやっと笑った。
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田山と山田は教室に着く。2人のクラスは3階で、窓からテニスコートがよく見える。2人は誰もいない教室に電気もつけず、窓越しにテニス部を観察し始めた。
「これ、使えよ。」
田山がポケットから小さな望遠鏡を取り出す。
え?望遠鏡?
双眼鏡ではない。望遠鏡だ。山田は高さ30センチくらいの小さな望遠鏡がどこから出てきたのか、目をぱちくりしながら記憶を逆再生する。
「え…?いや、意味わかんないんだけど…田山くん、これどっから出したの…?」
「ん?これか?そりゃ転校生パワーでポケットからだよ。」
「ふ、ふーん…」
俺は幻覚でも見ているんだろうか。山田は夢現な中、グランドの広印を観察し始めた。