女子部員
「お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!」
みんなが部活を終えて帰る。女子硬式テニス部の広印はやっと家に帰れると、少しほっとしていた。
「広印、明日も朝も頼むよ。」
ふと帰り際に、同じ学年の乙骨にぽんっと肩を叩かれた。広印はビクッとして硬直する。何も返事をしないでいると、乙骨が不意に後ろを振り返って、ギロッと睨んだ。
「広印…?」
「あっ、うん。わかった…!」
広印はさっと笑顔を作って乙骨に手を振った。
「んじゃ、よろしく〜」
乙骨とその他の女子3人が帰っていく。今日の片付け当番は彼女たちなのだが、広印は1人、グランドに取り残された。浅くて短いため息をつく。
『また…1人でやるのか…』
広印は最近、部活の片付けを乙骨たちにやらされている。彼女たちが片付けの番の時、決まって広印に押しつけて帰るのだ。最近はテニス部が行っている朝の掃除当番も押しつけられるようになった。が、広印はどうしても自分でやってよ、と言うことができなかった。
それはもちろん、先述した彼女の自信のなさもあるが、彼女は何より1人になるのが怖かった。最初からひとりぼっちの山田とは状況が違った。
広印は乙骨たちと同じクラスだ。同じテニス部ということで一緒に行動していたが、何故かみんな広印にだけ当たりがきつい。
この間も朝の掃除当番を任されたり、教室に忘れたシューズを取りに行かせれたり、グランドの外に出たボールを取らされたり…今日は提出物のチェックや日直の仕事をやらされたりした。
でも、決して広印は嫌とは言わない。
それ程までに、広印は1人が怖かった。
『仕方ない』
そう言い聞かせて、広印は1人で片付けを始める。
ーーーーーーーーーー
次の朝、山田はまた小野分たちに押し付けられた清掃委員の仕事をするために、いつもより早く学校に行った。すると廊下で1人、掃除をしている広印と出会った。
「あっ広印さん…おはよう…掃除当番…?」
「山田くん、おはよう…いや、私じゃないんだけど…ちょっと頼まれて…」
できるだけ人と関わらないように生きてきた山田は、いつもならここでそっか、と言って通り過ぎるのだが、昨日広印がボールを取らされていた事が頭をよぎった。
「その…広印さんってさ…いじめられてるの…?」
広印は驚いて目を大きく開く。
「いや…その…私が自分でやってるだけだよ…?」
『いや、でも、もしかして、誰かにやらされてるんじゃないの?』
心の中で、田山の声が聞こえる。田山なら、そんな風に切り込んで行けたかもしれない。が、山田は腰抜けだった。あまり詮索するのも可哀想かと思い、
「そっか…頑張ってね。」
と言って、通り過ぎてしまった。
山田は激しく後悔した。
自分と同じように、もし誰かに嫌々やらされているのだとしたら。やめてと言えないだけなのなら。人に話せるだけでどれだけ気持ちが楽になるだろうか。
しかし、人間関係とは複雑だ。構わないで欲しいという気持ちもあるだろう。山田はどう動くのが正解だったのか、この日も小野分たちにいじめられつつ、ずっと考えていた。
そして広印もまた、激しく後悔していた。
山田の気遣い、優しさを無下にしてしまった。山田がかなり激しくいじめられているのは、広印も知っている。山田くんなら、話してもいいんじゃないか…?そう思いつつ、自分はただ、いじられているだけなんだと納得している自分もいる。
広印もまた、自分はどうすればいいのか、ずっと考えていた。