3つの復讐実践編
次の日、小野分は登校してくるなり、下駄箱の前で怒鳴り散らした。わざわざ山田が登校するのをそこで待って、田山が作った4足組上履きを、遅れて学校に来た山田にぶん投げた。山田は痛かった。
が、いつものように辛くはなかった。
この日の最初の授業は英語である。
山田と田山はひやひやどきどきしながらその時を待つ。小蚊の席は教室の一番前だ。
「では今日は9ページから。」
先生がそう言うと、みんなが一斉に教科書を開いた。
が、前の席でただ1人、不自然にもぞもぞと動いている奴がいる。相当焦っているようだ。開くはずの教科書が開かない。なんて可哀想なんだ。小蚊はしばらく開かずの教科書と格闘していたが、無理だとわかるとそれをそっと机にしまい、隣の席の子と机をくっつけ始めた。
英語の授業では、教科書を忘れてきた人はこうして隣に見せてもらうルールなのだ。
小蚊の席は一番前なので、みんなが注目している。非常に可哀想である。
上手くいった。ほっとした山田は田山の方を見る。笑いを必死に抑えている。というかほぼ吹き出している。その姿があまりにも面白くて、山田は今度は自分の笑いを抑えなければならなくなった。
次の授業は国語である。この授業はみんなで朗読をすることから始まった。小野分は山田より後ろの席のため、直接様子はわからなかった。が、朗読が始まってから、後ろで何やらパリパリと小さい音が聞こえる。
どうやら必死で教科書を剥がそうとしているらしい。自分の番が来る前に何とかしなければ。そんな無言の焦りが聞こえてくる。
「次、小野分。…あれ?お前、教科書どうした?」
先生が指摘することで、みんな一斉に彼の方を振り向く。小野分は顔を真っ赤にしながら、忘れました、と言った。
特に先生に怒られた訳では無いのだが、山田はそれでも嬉しかった。が、その後小野分の視線が背中に刺さりっぱなしだったので、落ち着かなかった。
次の授業は数学だったが、さすがに小野分たちも気付いたのだろう。子分二はいち早く自分の教科書の異常に気付き、カッターで周りを切り落とした。その大胆な行為に山田は驚いたが、少しでも彼らの手を煩わせることができてほっとしていた。
その後も休み時間中、彼らはずっと他の教科書のチェックをしていて、全く山田をいじめてこなかった。
そして、昼ご飯の時間。最後の復讐の時がやってきた。
昼ご飯の時間、実は山田たちは4時間目の体育に、仕返しの準備を済ませていた。後は見守るだけだ…
体育の後、程よく疲れた男子中学生たちが帰ってくる。あー喉渇いた、と言いながら、ドアを開け、水筒を手に取る。小野分が水筒を飲むと…
そのまま隣にいた子分二に吹き出した。
「なんだこれ!!にっが…!!!誰だ!!こんなこと…するやつは…」
全て言うまでもなく、小野分は山田の方をギロッと睨んだ。
「山田ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!てめぇ!!今日調子乗ってんな!!!!!」
実は水筒の中に、石鹸のかけらを入れておいたのだ。石鹸が水筒に溶けると、とんでもなく苦くなり、場合によってはもこもこと泡立つ。そして、フローラルな香りが漂う水筒と成り果てるわけだ。埃まみれになった弁当の恨みは恐ろしい。
小野分は勢いで山田を一発殴った。山田はその衝撃で軽く吹っ飛ぶ。すごい怒りだ。いつもならここで倒れている山田を何度も殴るのだが、廊下で体育の先生の声が聞こえた。中学生にとって体育教師ほど恐ろしいものがあるだろうか。
状況が悪かった。小野分は舌打ちをして、山田から離れた。
山田は昨日仕込んでおいた全ての仕返しが終わり、ほっとしていた。
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この日の帰り、山田は部活終わりの小野分たちとドッキングしないように、この日はいつも放課後に行っている図書室に寄らずに帰った。
校門でまたもや田山が待ち伏せしている。
「よっ、山田。…上手くいったな。」
山田は静かに頷く。
「うん…田山くん、ありがとう…」
田山はまた手を差し出して、山田とハイタッチしつつ握手した。
「よし、また次のプランを考えなきゃな。」
「えっ?まだやるの?」
「当たり前だろ。あいつらがいじめをやめるまでやり返す。」
田山は山田に向けて、にやっと笑った。
そのまま一緒に帰ろうとグランドの脇の道を通っていると、テニスボールが転がってきた。
「なんだ?テニス部か。」
田山がそう言ってボールを拾うと、木の茂みから砂だらけになった広印が出てきた。
「うわっ!!びっくりした!!広印さんか。」
広印はまたもや2人と遭遇してしまい、気まずそうに笑った。
「あ…2人とも…テニスボール、見なかった…?」
「あ、これだろ?」
田山は広印にテニスボールを渡す。
「ありがとう…」
グランド側から、女子の声が聞こえる。
「おい!広印!!そっちに10個いったから、それも取ってこいよ!」
広印はその声を聞くと、犬のように小さく身震いして、山田たちに引きつった微笑みを見せた。
「あ…なんか呼ばれてるから…私、行くね…じゃあ…」
広印はグランドに消えていった。
田山と山田はその様子を、真面目な顔をして見ていた。
山田の悲しそうな目を、田山はじっと見つめていた。
このお話を読んでくださり、ありがとうございます!
第一章はここで終わりです。こんな感じで仕返しを中心にお話を進めていきます。
最後、山田が親指を立てながら溶鉱炉に沈むくらいの感動的なオチを考えているので(大嘘)今後も是非読んでいただけたらと思います。
これからも「山田くんの逆襲」をよろしくお願いします!