目撃
教室のドアが開く。そこには…
「広印さん…?」
「あれ…山田くんと田山くん…?」
広印は山田と田山のクラスメイトだ。山田の前の席に座っている、地味な女の子である。大きい目が印象的で、髪は下の方で2つに結ってある。よく見ると可愛いのだが、本人に自信が無いのか、いつもおろおろしているため存在自体が薄い。
「それ…教科書…?」
広印はボンドの匂いが漂う教室の中、おかしな合体を果たしている上履きに目を落として、見てはいけないものを見てしまったかのように気まずそうにしている。
山田は小野分への仕返しをクラスメイトに見られてしまったことで、今すぐいや、これは違うんですと主張したかったが、何も違わない。山田が小野分たちに悪戯しているのは事実である。山田は心が痛かった。
すると田山が、
「おお!広印さん。どうしたの?部活中?」
と爽やかスマイルで聞く。広印はおどおどしながら、
「うん…そうだよ。友達がシューズ忘れてたみたいで…取りに来たの。」
と言った。それを聞いた田山はにやっと笑いながら言った。
「ふーん。どうして広印さんが取りに来たの?」
広印はドキッとする。唾を飲み込む。何とか言い訳を考えて、震える声を絞りだした。
「えっと…その…友達は今…試合中だから…ね…!」
なんとか取り繕ったが、田山は依然、にやにやしながら広印を見つめる。本当のことを言えと言われているようで、広印は目を逸らした。山田はその田山の様子を隣で凝視していた。
田山は時々、人が困っているのを見るのが楽しそうな時がある。もしかして…いじめっ子なのか…?
しばらく沈黙が続いた後、田山は何事もなかったかのように、
「そっか!大変だね。部活頑張れ!」
と言って、爽やかスマイルに戻った。
広印はほっとしたのか、うん、とだけ言って足早に教室を去って行った。
山田は何が起こっていたのか聞こうとしたが、田山が少し怖かったのでやめておいた。
その後、山田と田山は作業を終えて教科書や上履きを元の場所に戻し、学校を後にした。




