帰り道
山田と田山は同じ方向に帰る。
暗くなってきた道を一緒に歩いた。
この後、田山はどこに帰るのだろう。山田は田山の横顔を見つめる。
「ねぇ、田山くんってさ…」
「何だ?山田。眼鏡ずれてるぞ?」
田山が山田を笑った。山田は恥ずかしそうに眼鏡を外し、かけ直す。
「山田、お前目悪いから知らないかもだけど、眼鏡外したらまあまあイケメンだぞ?高校でデビュれよ。彼女できるかもだぞ。」
「何それ。馬鹿にしないでよ。」
山田はにこっと笑った。
「山田、さっきなんか言いかけてなかったか?」
「あっ…あのさ、」
目の前に、一緒に笑う友達がいる。
1年前までは考えられなかった。一体一年前と何が違うのか。いじめはなくなった。友達もできた。大切な、友達。
「田山くん、俺と仲良くなってくれて…その…ありがとう。」
「何だよそれ。」
「いや、田山くんがきてから、俺、死にたいって思うこと、ほんとに少なくなったなと思って…その…ありがとう。」
田山は少し、泣きそうになりつつ、
「何だよ。愛の告白か?やめろよ突然。」
と言って突然立ち止まり、左手を出す。
「え?」
「ハイタッチだよ。いつもやってるだろ?」
「でも、何にも仕返ししてないよ?」
「いいじゃんか。」
山田は首を傾げながら、とりあえず田山が差し出した手に右手で強く、ハイタッチしつつ手を握った。
パチンッと音が響いた。
「じゃあ、また明日。」
そう言って山田が歩いていくのを、田山は見守っていた。
『あいつ、成長したな。もう…心配いらないな…』
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山田は帰りながら、明日の宿題の事を考える。
そういえば、数学の第二問のところ、解き方を教えてもらうの忘れてた。明日図書室で教えてもらおう。
…
…誰に?
あれ?
…誰だっけ…?
いつも図書室で一緒に勉強している、あの…広印さん?じゃなくて…えっと…
陽乃元さんでも、子分二でもなくて…
あれ…
山田は今日1日を思い出す。が、そこには広印、陽乃元、子分二、山田が楽しそうに笑っている記憶があるだけだ。
あれ…他に誰か…いたような…
山田は右手を見つめる。
なぜか、右手がジンジンと痛い。
山田はふっと、後ろを振り返った。
…
ま、帰ろっと。
山田は歩き出した。